ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.26 2019 BSB スネッタートン 300(Ducati Cup R5)

 

プロ選手権デビュー

私にとっての BSB(全英二輪ロードレース選手権) 初戦は、2019年 7月19-21日開催のスネッタートンラウンドとなった(サーキットの詳細は Vol.6 参照)。2014年にレンタルトラックバイクで初めて走った時はインストラクターを振り切り(Vol.3)、翌 2015年には鮮烈なクラブレースデビューを果たした(Vol.6)思い出深いサーキット。嫌いではないコース。

 

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7月19日金曜日の朝にサーキット入り。大会 Office で BSB 初参戦者を対象としたブリーフィングを受けた。既にシーズンも折り返し。参加者は私を含めてたった 3人。誰もが慣れた雰囲気でパドックを所狭しと精力的に動いている。屋根にアンテナの付いた TV 局の車が何台も見える。転校、転勤初日のような、居心地の悪い気遅れ感を持った。

 

その後 Jason に連れられて BSB のオーガナイザーや Ducati Cup のチェアマンに挨拶をしに行った。また、我々のテントの近くに張られた同じクラスのいくつかのテントを訪問した。数軒先のテントには Dani が居た。彼は私を見るなり、おー Crazy Japanese がとうとう来たかと云わんばかりに、笑いながら両手で顔を覆って下を向いて首を振った。

 

私は思わず「全然ダメだから」と伏線を張る。Jason も「Hiro は病み上がりだから」と同調してくれる。ただ Dani は Jason に「Hiro は俺より速いから心配ないよ」と返す。もちろん白旗ではない。借りを返すぞといったところか。また別のライダーには「君が Hiro か。知り合いがいまだに君のことを話しているよ」と言われる。やばいな。。焦りしか感じなかった。

 

Panigale 959 は速いのか 

その日は公式練習。まずは、少なくとも自分のベストの感覚を取り戻したい。Dani のタイムをベンチマークにするのが常道だろう。Jason が Dani の昨年のこのラウンドでのラップタイムを調べてくれた。驚いたことに彼のそれは、一緒に争っていたクラブレース時代の彼自身の 1000cc のタイムよりも僅かに速いものだった。

 

あの乗りにくい印象の Ducati Panigale 959 は、慣れれば 1000cc マルチと同じようなタイムで走れるバイクということなのか。それとも、ずっとレースを続けている彼が大きく成長したということなのか。それはいずれ分かるだろう。とりあえずの私の目標タイムは、2015年の UK 初レース時に記録した 2分0秒台とした。その後に経験を積んだのだから甘目の設定だ。

 

ただ、BSB における金曜日の公式練習日は、クラブレースのように 1日中走れるわけではない。しかも Ducati Cup を含めたサポートレースのタイムスケジュールは更に限定的である。この日の Ducati クラスの公式練習はたったの 1回で、走行時間は 20分だけ。もはや練習というより、ウォーミングアップである。

  

 

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有無を言えず、気後れしたまま出走した。結果、公式練習の私のタイムは 2:07.439。26台中の 21位。トップとのタイム差はなんと 12.9秒。全くもってお話にならない。甘めに設定したつもりの目標タイムからも 7秒も遅い。相変わらず私には Panigale は乗りにくいとしか感じない。焦りと、周囲、特にチームへのバツの悪さがこみ上げた。

 

場違いな私

翌 7月20日(土)。今日は予選と Race1 がある。ホテルを早めに出たが、サーキットのゲートに入るのに長い列。日頃は見渡しの良い牧歌的な雰囲気のサーキットも、観客が多いとこんなにも雰囲気が違うのか。今回はチームがエントリー手配をしてくれたこともあって、入場パスの受け渡しすらうまくいかない。ゲートで係に交渉したり、Jason に電話したりとバタバタ。

 

やっと Ducati クラスに割り当てられたパドックに着いた。テントやモーターホームが並び、観客もそこら中に居る。極力雰囲気に呑まれないように努めるも、昨日の改めての自信喪失も有って、テンションは上がらないまま。私は場違いなのではないか、という気持ちすら沸いていた。

 

予選は 9時40分から 20分間で行われた。どんなにバツが悪くても逃げ出すわけにはいかない。とにかく一生懸命走った。結果、私のタイムは 2:03.780 で 26台中の 19位だった。トップとのタイム差 8.9秒。目標タイムからは 3秒半遅れ。ちなみに Dani は 2:00.071 で16番手。やはり当時の 1000cc のタイムあたりで走っていた。

 

相変わらずひどいが、昨日より 3.6秒も詰めた。プロレベルの大会に参戦して、1走行で 4秒近く詰めるとか、どれだけ準備不足なのかと思うが、それでもホッとした。私としては同じように一生懸命走っただけなのに勝手にタイムが詰まった。やはりブランクが有るだけなんだと思えたからだ。本番でまた同じ分詰まれば目標タイムに届くではないか。

 

 

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迎えた 14時45分からの Race1。グリットに着く。すっかり雰囲気に呑まれていた。自分はスタートが苦手だ。前回のこのトラックでのレースは 2016年 NLR 第2戦。その時はスタート直後の 1コーナーで大転倒を喫して終わった(Vol.16)。今回は初めだし、無理せずスタートして経験を積もう。グリッド上でそんなことを考えながらスタートした。

 

一気に周りに置いて行かれる。もともと後ろには 1列しかなかったから 1コーナーの進入はほぼ最後尾。大丈夫、このコースは苦手ではない。ペースが上がれば何台かは捉えられるはず。…が、さすがは皆 BSB ライダー。スタートでミスる奴などいないし、一周目からそれぞれがベストラップタイム近くで走ってくる。徐々にペースを上げるなど無い。

 

焦る。何度もシフトミスをする。Panigale は難しい。焦れば焦るほどタイムが落ちる。落ち着いたころには、前のバイクも見えないほどの単独走行になっていた。ペースも上がらずそのままレース終了。結果は完走 20台中 17位。レース中のベストタイムは 2:05.502。タイムは大幅に短縮されるどころか後退していた。

 

また、1周のラップタイムもさることながら、レースタイムの状況はさらにひどかった。決勝中の転倒者が居るので順位の上では分からないが、予選でグリッドが後ろだった数名のライダーに先にゴールされている。そして、ひとつ前の 16位でゴールした 予選 22位の Peter Hasler にさえ 31秒も離された。どれだけ私はバタバタ走ったのか。
 

Just move on... 

7月21日(日)。今日は 11時45分からの Race2 のみ。事前の Warm Upセッションすら無い。なかなかである。このようなタイムスケジュールに嫌気がさしてクラブレースに戻った Rider を知っている。そんな気にもなるだろうなと思った。ここは完成されたライダーが居る場所。今の私は明らかに場違い。でも、とにかく行こう。

 

 

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正真正銘 1周だけの Warm up ラップからスタート。いつも通りにスタートで置いて行かれる。焦れば焦るほどタイムが落ちる。パワーに劣る Panigale はコーナリングスピードが重要だが、無理して突っ込み過ぎるから逆にスピードが落ちる。で、シフトミスも繰り返す。昨日と全く同じ展開。結果も同じで完走 20台中 17位。ベストタイムは 2:04.329 。

 

Race1 のベストラップからは 1秒以上縮めたが焼け石に水。予選タイムすら更新できなかった。一方の Dani は 13位で、タイムはなんと1:58.345。クラブレース時代は確かに私の方が速かった。30秒近く離して勝ったこともある(Vol.9)。そんな彼より 1周で 6秒も遅いなんて…。相手になっていない。もはや彼がベンチマークなどと言えないではないか。

 

タイムを見れば、私が本来の速さを取り戻せていないことは分かるのだが、精いっぱい走っている身としてはそれが限界の走り。歯が立たないようにしか感じない。場の雰囲気にも呑まれて、大観衆もストレス。わざわざ多くの人に恥をさらすために出場したようなものじゃないか。私の夢の BSB 初戦は、身の程を痛感し、場違いを感じる結果となった。 

 

             ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー

Race1        19th           17位                90.17%
Race2        22nd          17位                90.95%

 

ああ… 私に注目していた周りは期待外れと思ったことだろうな。私のブランクも『とりあえず取り戻そう』なんてものじゃない。シーズン残り 3戦を掛けて取り戻せるかのレベル。夢に見た舞台は正直まったく楽しくなかった。でも、落ちた気持ちの中でいろいろ重要な判断をするべきではない。こういう時は just move on... 私は次も走る。

 

※ 今回から結果欄に Race Speed(優勝者比)を加える。これはレースを通しての平均スピード。アクシデントによる周回数の増減やペースの浮き沈みが有る上では、レースタイムやラップタイムより状況を正しく表す。ちなみに私の現在の競技ライセンスは Clubman。National(国際ライセンス)昇格には、このレベルのレースで、この対 Winner Race Speed が 92.5% 以上の Result Sheet を 10枚提出することが条件になる。