ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.31 2019 BSB ドニントンパーク(Ducati Cup R8)-前編- 

 

終戦

怪我による出遅れで後半戦だけの参戦になった 2019シーズンもいよいよ最終戦。BSB Ducati Cup 第8戦は、4-6 OCT の日程でドニントンパークサーキットで開催される(サーキット概要は  Vol.7 参照)。今回も大観衆が訪れた。

 

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これまでの自分の位置には納得していない。でも着実に上がってきている。ここドニントンは馴染みのあるサーキット。Dani に追いつくのも、ZX10R の持ちタイムに近づくのも、つまり、自分が思う ’居るべき位置’ に近付くのもここしかない。Assen 遠征はどこか非現実的だったが一気に現実モードになる。

 

残念ながら、アッセンからドニントンまでの間に計画していた練習には行けなかった。さすがに一週間も休めば仕事も溜まる。ドニントンラウンドの週末 3日間を得るためには断念せざるを得なかった。まあ仕方がない。Panigale でクラブレースに出ておいてよかった。乗れている感覚で居られるのは大きい。

 

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Enjoy! 

迎えたレースウィークエンド。10月4日(金)は Free Practice のみで、しかも夕方 16:25から。普段より少し遅く家を出て、9時頃サーキットに到着した。Jason は既にテントを立てて待っていた。天気は予報通りの雨。激しく降ってはいないが路面は完全にウェット。雨は望まないがしょうがない。ライバル達と同じように動じずに対応するしかない。

 

テントでコーヒーを飲んでいると、ひとりの年配男性が私を訪ねてきた。Jason は当然のように握手を交わし、BSB の名物ブロードキャスターだと紹介してくれた。彼は今週末の TV 実況放送に向けてライダーの情報を集めているというわけだ。やはり元スーパーバイクチャンピオン、清成選手の話をしてくる。つまり私の一番の特徴は日本人ということ。正真正銘一流プロレーサーの清成選手にとっては、趣味の延長の私とひとからげにされても迷惑というものだろう。

 

近くの Kawasaki 系チームのテントに Leon (Haslam) が居るのを見つけた。Leon は昨年の BSB Superbike チャンピオンを経て、今年は World SBKカワサキワークスから参戦している。彼も私を見つけるなり「Hey!」と言ってきた。Ducati Cup に参戦していることを伝えると「Enjoy!」と返してきた。イギリス人は結構シリアスな場面でも Enjoy という言葉を使う。直訳の『楽しんで』だと少しおかしなニュアンスになるが、『良い時間を』といったところだと思う。私も「You too!」と返した。

 

Dani を捕らえる

16:25 からの Free Practice。雨は昼過ぎに上がったが、気温が低くて曇り空では乾きも遅い。路面は一番厄介なダンプコンディション。全く望まないが、コントロールできないものを悔んでもしょうがない。出走に向けて集中力を高めた。だが、朝からこれでもかというくらい時間が有ったのに、万が一を想定して外してあったタイヤのセットが 15分前になっても終わっていない。こちらはコントロールできないこととは違う。Easy going な Jason のイマイチなところ。

 

10分前にタイヤが取り付けられ、私はすかさずタイヤウォーマーを巻く。出走前は他に気を使いたくないのだが、私自身で周りのテントのライダーの動きを気にする。16:20、スケジュールが少し早めに進行しているようでクラスのライダー達が出ていく。ウォーマーは 10分も巻いていないが、予選は 20分しかない。私も 5分遅れて出た。たとえ温まりやすいレインタイヤでも、既に数ラップを失っていても、最初の数周は慎重に走らなければいけないことは百も承知。

 

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抑え気味にラップをこなしている間、各コーナーの路面の乾き具合の把握に努めた。それが功を奏した。ひとたびペースを上げた時は、まだ見えぬ次のコーナーのドライラインを狙って攻めることができた。結果、全く転倒者がいない中での 12位。なんとランク 3位の Sean Neary を含めたトップライダーの何人かが後ろにいた。Dani も後ろ。かつて打ち負かし切った Dani。でも BSB では一段上に居る Dani を初めて捕らえた。

 

もちろん、このコンディションの中でアタックを回避したライダーも居るとは思う。Dani もそうだったのかもしれない。それでも、周囲も驚く順位は、私にさらなる前向きモードをもたらした。やはり私は、良く知るドニントンでは一段階高いレベルに居るんだ。これが予選なら、転倒が数台出るレースではシングルフィニッシュになるポジション。この位置こそ、参戦前に予想していた私の居るべきポジション。

 

フロッグではない

翌 10月5日(土)は 2回の出走。朝 9:40 からの 20分間の予選と、14:45 からの 10ラップの Race1。天気は一日中曇りの予報。迎えた予選、路面はドライ。結果は、昨日はハーフウェットだったからという疑念を払しょくする、転倒者が居ない中での 15番手。同じように転倒者がいなかった Assen の予選では 21番手だったから、やはりひとグループ飛び越えている。今回はドライコンディションなのだから、このポジションはフロッグではない。

 

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タイム 1:39’101も、一か月前のクラブレースでのベストより 1.7秒早かった。当初の目標の 40秒台を超えたのはうれしい。しかも 39秒台前半。ポールタイムからは依然として 5秒少々遅れているが、これまでのポールタイムとの差が軒並み 7秒辺りだったことを考えると満足は出来る。Dani はひとつ前の 14位。タイムは 1:38.244。 私とは 0.86 秒の差。3秒ほど離されていたこれまでとは大きく違う 。グリット的にもタイム的にも彼と戦える状況にある。

 

納得できる結果

迎えた Race1。左隣の 14番グリッドに Dani が居る。やっと彼を捕まえるチャンス到来。シーズン終了まで間に合った。レッドシグナルが消えてスタート。またもや 4,5台に抜かれる。一周の間に 2,3台を抜いてポジションを戻す。数台前にいた Dani がシケインで少しオーバーランして目の前現れる。実は彼は 5月のドニントンの雨のレースで 2位表彰台を獲得している。実力以上だがレースでは有りえること。つまり彼もドニントンには気合が入っている。

 

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とりあえず Dani のペースについていこう。最終コーナー立ち上がり。うっ、速い。正にこの点こそ、James Ellison にも指摘された、私が Panigale を攻略する上で改善しなくてはならない点。やはりまだ差が有るか。と思った瞬間、Dani がハイサイドで転倒を喫した。やはりあの速さは行き過ぎだったか。でもそういう次元でアクセルを開けているということだ。私はこのバイクであわやハイサイドなどという目にあったことが無い。一段上に行かれてしまった彼との比較ができた。

 

予選で後ろに居たライダーをほぼ捕え切った頃にはレースも後半。本来喰い下がらなければならないライダー達の背中はストレートの彼方に離れていた。次のレベルを狙うには、その、コーナー出口のアクセル開け方もさることながら、昔から苦手のスタートを何とかしなければだめだ。#50 Matt Steven を抜いた次の周のピットボードは +1.5。Matt は離れる一方のようだし、今からでは前にも届かないだろう。こういう時は転倒のリスクを避けてコンスタントに走るべき。

 

迎えた最終ラップのメルボルンヘアピン。残り 2コーナー。気を抜き過ぎたのかヘアピンで少しはらんでしまった。っと、イン側にバイクが 2台も入り込んできた。#28 Ben Broadway と、#90 Craig Kennelly。アッセンで完全に前に行かれてしまった後方集団のライバル。えっ、直後に 2台も居たのか!クロスラインで先にアクセルを開けて立ち上がり、直後のストレートでその 2台を抜き返すことができた。最終コーナーはブロックラインを取ってそのままゴールラインを抜けた。かろうじて事なきを得た。

 

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15位 1ポイント。ほぼ転倒者が居なかった中での15位は、Cadwell の 12位と同じく後方集団のトップ。ベストラップ 1’38’591 は予選タイムを 0.5秒更新した。レース Fastest Lap との差もこれまでで最小の 4.9秒。しかもドライで。タイムがモチベーションの今としては、Panigale 959 で ZX10R でも軽くは出せないタイムを記録したことは大きな喜び。完全にこれまでの 3戦とは違うポジションにいる。納得できる結果だった。

 

一方で、リザルトシートを見ると、私の後ろの 3台はそれぞれ 1秒差以内でゴールしていた。3台も居たとは。一気に 18位まで落ちる可能性が有った。Jason 曰く、私が Matt を抜いて+1.5秒のボードを出した周に、後ろの 2台が Matt に追いつき、3台のペースが上がって、ペースを落とした私にみるみる近付いたそうだ。残り 2周ではボードでは伝えきれない。ピットサインによるコミュニケーションに課題を残す出来事だった。

 

レース後、Dani のテントに寄った。大きな怪我はなかったようで良かった。ただマシンにダメージを負ったよう。「もう 1台バイク有ったよね? リアシート借りられないかな」と言う。彼には明日も居てもらわなくては困る。Jason に了承を得、Jason のバンの中のバイクから外して渡した。Dani はお礼とともに「いよいよ上がって来たな」と言った。彼も私を待っているのかもしれない。ブランクを克服した後の私に借りを返す時を。

 

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夜、サーキット近くのホテルで、私の家族、そして前ラウンドにも応援に来てくれた友人家族と落ち合った。土曜日に子供の学校(日本人学校)があるので、私の家族も今は土曜の夜からくる。おなか一杯食べて、皆で楽しい時間を過ごした。好き嫌いが無くて食べることが大好きな私にとって、歳をとると太り易い、というのは悲しい現実。シーズン中は食事量を抑えるしかないが、レースウィークエンドだけは気にしないことにしている。

 

それにしてもクラブレース時代に比べて格段に時間に余裕がある。出走頻度が半分以下で、バイクの準備をしなくて良く、そして転倒をしていない。その一つ一つだけでも大きいのに、全てが揃っているからなおさらだ。特に今シーズン、練習を含めて転倒がまだ一度も無いことには驚きだ。雨も多かったというのに。そういえば以前、当時 BSB チーム監督だった Paul が言ってたな。「高いレベルでのレースは一人では無理だ」って。

 

明日は今夜からの雨が一日残る予報。でも、昨日のダンプコンディションの Free Practice では良い成績を得ている。自分のバイクでの参戦ならバイクの整備のことでも頭がいっぱいになるが、今はその必要もない。そこまで雨を恨めしくも思うこともなく、その夜は落ち着いて寝ることが出来た。いよいよ明日は今シーズンラストレース、もしかしたら BSB 最後のレース。思い残すことの無いように走ろう。

 

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