ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.32 2019 BSB ドニントンパーク(Ducati Cup R8)-後編-

 

最後のチャンス

迎えた10月6日(日)。今シーズンのラストレース。BSB 最終ラウンドは 2週間後のBrands Hatch だが、その最終戦はショーダウンと称してスーパーバイククラスのレースが 3レース組まれる。それに伴って Free Practice セッションや Warm Up セッションも増える。スーパーストック 1000 やスーパースポーツ 600 といったその他のメインクラスも 2レースずつあるから、Ducati Cup を含めたサポートレースはこのドニントンが最終ラウンドになる。写真 ↓↓↓ は 2019 Ducati Cup チャンピオン、#2 Josh Day。

 

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今日は 10:40からの 10ラップ Race2 のみ 。午前中のレースということも有って 、またもや Warm Up セッション無しでいきなりの決勝。激しい雨はサーキットに着く前までに収まったが、予報では一日中雨が残るもよう。決勝まで 3時間、仮に雨が上がったとしてもこの気温では乾かないだろう。昨日のドライから変更する Wet セッティングでいきなりのレースはきつい。チェンピオン争いをしているライダー達にはなおさらだろう。

 

スタート前のサイティングラップ、所々に微かにドライパッチが見える。おとといよりも濡れているが、レースである今日の方がコース上に居る時間は長い。きっと後半にはドライラインが現れてくる。おとといの Free Practice では 12位だった。全員がフルペースで無かったとは思うが、その時点で週末を通して雨の予報だったことを考えれば、皆それなりに攻めてはいたはず。このレースも良いポジションで走れるに違いない。

 

レッドシグナルが点灯。そしてスタート。またもや 4,5台に抜かれる。相変わらずのスタートの悪さには嫌気がさす。先に行かれたのは昨日のレースで私の背後でフィニッシュした後方集団のライバル達。彼らに引っかかっていては再び前のグループが逃げてしまう。早めに挽回しなくては。が、多くのコーナーの半ドライラインは一本しかない。ペース的な優位は分かるものの、ラインを大きく外すことが出来ない。 1台ずつ慎重に抜いていく。

 

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5周目迄に、先行した後方集団のライダーを全て抜き去った。Race1 と同じく、レース折り返しまで要してしまった。 3秒ほど先に Dani が見えた。私は Ducati Cup への参戦自体、彼よりは速い、という見立てで決断出来た部分もある。ふたを開けてみれば全く歯が立ず、ここまで彼を捉えることが目標になった。そして難しいと思ったシーズン終了までにチャンスが巡ってきた。私の本当のチャレンジは彼を捕えた先にあるんだ。ここで Dani を抜くんだ。

 

しかし、、私が気合を入れ直したその周の第 3コーナーの先で、Dani がいきなり手を挙げた。レッドフラッグ? 少しアクセルを緩めてポストを確認する。が、旗は振られていない。彼のマシントラブルだ。Dani リタイヤ。昨日の転倒のダメージが残っていたのか(後から聞いた話ではシフトペダルが脱落したらしい)。昨日は私の目の前で転倒し、今日は私の目の前でマシントラブル。彼はどうしても抜かせてくれない。写真 ↓↓↓ は、ギヤをホールドしたままピットに戻った #33 Daniel Show。

 

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その時点で、その前のライダーからは 10秒ほど遅れてしまっていた。一方で後方のライダーも離れていた。Race1 と全く同じ状況。その昨日のレースでは最後にあわやという展開が有った。今回はペースを落とさずに走り、ピットボードも注意深く見ていた。だが後ろのライダーは一向に迫って来ず、むしろ差は開く一方だった。そのままレース終了。昨日背後でゴールした 3ライダー達を、数十秒から 1分引き離してゴールした。11位 5ポイント。参戦以来の最高位。Jason が Pit wall から身を乗り出して拍手しているのが見えた。


納得と満足 

レース中のベストラップは 1:48.536。レース Fastest Lap の1:43.590 から 4.946 差。このレースも、これまでのほぼ 7秒差に比べてひとグループ飛び越えていた。ドライの Race1 とほぼ同じであることも、今回の私のペース、そしてポジションがそこであることを証明している。シーズン終了までに Dani を捕らえるという念願は果たせなかったが、実質的な内容は、復帰以来ずっと据えてきた目標を果たせたに近い。

 

事実、その上位のスペシャルなタイムはリズムに乗った数名が記録していただけで、5位でレースを終えたランク 3位の Sean Neary でさえ Fastest Lap から 2.694 秒遅れ。雨が苦手な昨年のチャンピオン、元 GPライダーの Rob Guiver に至っては 3.999 秒も離され、逆に私との差は 0.947秒で 1秒を切っていた。私のベストラップは Dani の 1:49.741 も上回り、中位グループの下位に割り込んでいだ。納得のいく結果。

 

もちろん課題はある。そのベストラップに比例せず、私のレースタイムはトップから 1分3秒、ラップ差が 1秒以内の Rob からでさえ 25秒近く離されていた。いかに私のスタートが悪く、序盤のペースが遅いかが分かる。スタートで多少出遅れても、追いついてトップになれたクラブレースとは違う。もしも来年が有るのなら、改善すべき課題は明確に見えている。中位グループへの接近はそういった意味でも有効だった。

 

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クルージングラップで Josh Day が手を挙げているのが見えた。雰囲気からチャンピオンを決めたと分かった。まだ彼と話したことは無いが、背中をポンと叩いて祝福した。バイクプール場で改めて Josh におめでとうを言った。同じグループのライダー以外は話をしない雰囲気があるが、私は外国人だし、だいぶ年上。関係なく声をかけるようにしている。中には、話しかけてくるなとばかりに怪訝な顔をするライダーも居るけれど。

 

それに Josh のメインスポンサーは Host-it。そう、クラブレース 1年目に助っ人を頼まれたミリオネア Andrew Bishop の会社。Andrew も駆けつけてきたので祝福した。彼は私の結果も喜んでくれて「Free Practice から、いよいよ慣れて来たなと見ていたよ」と言い、Josh も「確か Snetterton から(の参戦)だったよね?たった 4戦ですごい進歩だね」と言ってくれた。Andrew が調子に乗って「来年は 2人でどこかの耐久レースに出るのはどうだ」という。冗談にしてもバツが悪かったが、Josh は「そうだね」と返していた。彼は好青年だと思う。まだ 20代。今後の活躍を祈っている。

 

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今回の 2レースとも私の前は #22 Dave Mackay だった。つまりリザルトの上では次のターゲットになるわけだが、彼は優勝経験もある True Heroes Racing のライダー。True Heroes Racing は ストック 1000 にも参戦する BSB 有数規模のチーム。Ducati Cup にはもう一人、トップランナーの #61 Dave Sellers もいる。大きなスポンサーを持ち、モーターホームやピットガレージは巨大。キャンペーンガールを擁してチーム Tシャツなどのグッズ販売もしている。

 

レース後 Dave (Mackay) に会った。彼は笑いながら「秘密練習したんだろ。もうアドバイスしないからな」と言った。私はこれまで完全に上のライダーと思えばこそ、近寄りがたい巨大なガレージにもアドバイスを仰ぎに訪れていた。こうした多くの上位ライダーが新参者の進歩を認め、ポテンシャルとしての位置づけを変えている。誇らしく思えた。もっとも Dave は調子が悪かっただけの気もする。クルージングラップで、バックストレートのほぼ全てをフロントを上げて走られては、そうも思ってしまう。かっこいい ↓↓↓

 

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サイン 

レース終了後のバイクプール場で Jason と話していると、近くに居たオフィシャルが、誰かが私を呼んでいると教えてくれた。外の観衆を見渡すと、その中に、クラブレース時代の耐久チームでチームメイトだった John と その彼女が手を振っていた。懐かしい顔を見て駆け寄った。メディアで私の BSB 参戦を知って、きゅうきょ応援に来てくれたとのことだった。私の好成績に大喜びしてくれて抱き合った。

 

John はレースを愛し、当時何かと一人だった私をいつも気遣ってくれた。しかし私がレースを一時離れた 2017年のクラブレース最終戦で大けがをした。ここドニントンの鬼門、クラナーカーブでハイサイドを喰らってあわや内臓破裂の重傷を負った。私もちょうどレースへのモチベーションを失っていた時期で、見舞いに行った彼の家の暖炉の前で色々話したことを思い出す。John はやはりあれ以来レースを離れたらしい。ちなみに彼の家の暖炉は薪をくべる。家も自分で作る黒板五郎のような男。

 

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John と話していると、若いイギリス人男性がプログラムとペンを私に差し出してきた。初め意味が分からなかったが、サインが欲しいと言う。エッ、初めての経験で内心焦ったが、慣れている振りをしてサインをした。そして私が握手に応じると嬉しそうに去っていった。そういえば今朝 Jason が言ってたっけ。昨日 BSB 放送で(金曜にインタビューに来たコメンテイターが)Hiro のことを話していた。今日はサイン求められるからペンと紙を用意しておいた方がいいと。冗談だと思っていたが、やはりここはプロの世界だった。

  

              ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー
Race1         15th           15位          94.42%
Race2         16th           11位          94.33%

 

家族や友人、そしてチームを含めて、レースの後の雰囲気は結果によって天と地の差がある。チャンピオン喪失、ましてや病院送りにでもなればその重苦しさは極まりない。一方で今回のように、良い成績、自己ベスト、しかもそれが最終戦ともなれば、その爽快感、達成感、そして解放感はとても大きい。そういえば、私は今まで満足感でシーズンを終えたことが無かった。結果に対しては色々違った見方も出来るし、まだまだ課題もある。そもそも来年も分からない。でも今はこの、初めてで最後かもしれない心地よさに浸ろう。

 

そういえばこの写真 ↓↓↓ オフィシャルのものだが、英語ではない名前のいいねがついていた。 BSB はワールドワイドなのだな。確かにいい写真。タイトルは『前へ!』にしよう。

 

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