ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.41 2020 BSB オールトンパーク(Ducati Cup R4)

f:id:RMARacing:20210217041156j:plain

 

 

見通し不良

ここまで、第1戦ドニントン、第2戦スネッタートン、そして第3戦シルバーストーンと順調に進み、一つ噛み合えばトップテンというところまで来た。当然、残る 2戦はそれを成し遂げるためのものになる、…はずなのだが、決して見通しは良くなかった。

 

前述の通り、今シーズンは全5戦中の実に4戦がレースをしたことの無いレイアウト。残る2戦もそう。これまでも説明してきた通り、BSB サポートクラスの金曜日は一般にイメージする公式練習日などではなく、練習走行は有っても15分程度、いきなり本番ということすらある。従ってラウンドへは、バイクも人間もアタックできる状況で臨む必要が有る。そうなると私としては、初めてのコースの場合は特に、本番までに最低でも 2回の練習、コースに慣れる目的の ZX10R(もちろん本当は Panigale が良いが)での練習と、セッティングや本番のペースを探るためのレースバイクを使ったチーム練習を持ちたいと思っている。

 

しかし、開幕を前に私が練習走行をバンバン入れているように感じた Jason が途中でストップをかけてきた。Jason はバイクの走行距離を増やしたくない立場だ。シーズンが 3ヶ月しかないから、無くならないうちに先に全ラウンド分を予約しているだけと説明したが、その時点で彼はそこまで理解してくれなかった。今となっては、どの練習走行も10月一杯まで空きは無い。私には一人で慣れに行く目的で予約してある、それぞれ1回の練習走行が有るのみ。スネッタートンやシルバーストーン前に持ったような、本番に向けたチーム一丸の練習の機会はない。

 

2020 BSB Ducati Cup 第4戦は、前戦から2週間後の 9月18-20日、オールトンパークサーキット(詳細は Vol.7 参照)で行われる。コースタイプは現代のパワーバイクでは持て余してしまう英国特有の古典的なレイアウト。アップダウンやブラインドが多くて攻め切るには慣れを要する。私が前回ここを走ったのは 4年半前の 2016 NLR選手権の開幕戦(Vol.15) 。その時もまだ天気の安定しない 3月として満足に走り込めないままレースを迎え、本番も週末を通してハーフウェット、満足にコースを攻め切った記憶はない。しかも当時は Shell ヘアピンが改修中でフルコースではなかった。

 

とにかく慣れなければ…。シルバーストーンラウンド 2日後に入れてある練習が唯一の機会。ただ今ラウンドの金曜日も相変わらず予選前に15分程のセッションがあるのみなので ZX10Rでコースに馴れるだけでは全く用足りない。思い余った私は前日に Jason の家を訪れ、何とか明日の練習に Panigale を貸してもらえないか頼み込んだ。本当は Pavを含めたチームによる本番に向けたマシンセットとタイムアップを図る機会が欲しいが、それが持てない今、せめてPanigale で慣れるだけでも大違いだと訴えた。彼は私の真剣度に押され、あれこれバイクに関する注意点を並べながら了承してくれた。

 

練習日の 9月8日(火)は天気が良かった。好調な時の遠征は悪くない。ただ、やはり久しぶりのスペシャルトラックには焦りを感じた。こんなにもあちこちでウィーリーするトラックだったか…。私は立ち上がりのフロントアップが好きでは無く、セッティングで抑えようとする。しかし前戦とここではトラックタイプが違い過ぎてリアサスはとうにフルボトム、スプリング交換が必要。持ってきていない。とにかくコースを攻められるようにと考えたが、フロントとのバランスもとれず、まともに走れないからギアすら決まらなかった。

 

それでも傍から見れば良いペースで走っていたのだろう。今回も同じピットに居合わせたグループから、何でそんなに速い?と声を掛けられ、私が BSBライダーと分かるとサインを求められた。確かに、つい 2日前にバリバリのレースをしたばかりなのだからライディング自体はハイレベルなのだ。開けっぷりが良いからあちこちでフロントも上がる。しかしレースをする目的の上では、そのコースをとりあえず攻め切れる段階に至っていないのは致命的。能力の限りのアタックが出来ないからだ。ラウンドへの見通しは極めて不良だった。

 

f:id:RMARacing:20210217025125j:plain

 

 

You don't like this course...

迎えたレースウィークエンド。今回の日程は、金曜に Free Practice と予選、土曜に Warm Up と Race1、日曜日は Race2のみというもの。やはり予選前にあるのは 20分間の Free Practice のみ。走り続けても10周が限度。ある程度攻め切れなければセットも決められないから、Free Practice はとりあえずのセットで出て、とにかく攻めることに専念しよう。あとは走行後に Pavと相談するしかない。Pav と私はロジカルに話せるので、その段階における取るべき結論に達することができる。これまでもそうして乗り切ってきた。

 

迎えた金曜午前の Free Practice 、結果は 30台中の21位。タイムは 1:49.604だった。トップから実に 8.706秒遅れ。私にはこのコースの持ちタイムが無いが、クラブレース時代の速さの有ったライバル、Thomas WEBSTER が R1で ぶっちぎりで優勝した時のベストラップが1分45秒台だったと聞いたことがある。つまり私の1000の持ちタイムがあればその辺り。既に1000ccの持ちタイムを超えることを成し遂げた今、ここでは必ずその45秒台、その先を狙うなら 44秒台に入れる必要が有る。まだ 5秒もあるではないか。

 

14:45 から 25分の予選。昇りこう配のバックストレートで3速、4速ともにフロントが上がってしまってはアクセルを全開にできない。そこを抑えるセット変更だけして出走した。結果は 29台中の19位、タイムは 1:47.353。Free practice から 2.25秒詰めてトップとの差も 7.075秒まで詰めた。しかし、調子が出てきた最後の最後、シケイン入り口でクラッシュを喫した。昨年の復帰以来、Panigale で初の転倒。バイクの右側とツナギの右臀部にダメージを負った。どちらも応急修理が可能なレベルで幸いだったが、やっと乗ってきた気持ちに水を差される形となった。

 

f:id:RMARacing:20210217040112j:plain

 


翌19日(土)、8:45から(たった) 8分間の Warm Up セッション。さあペースを上げようと思ったところスクリーンに水滴がついた。軽い雨か? スタート練習をしたいので少しアクセルを緩めてコース上に留まった。そしてチェッカー。クールダウンラップで決められたスタート練習ポイントにバイクを止めようとすると、あるライダーが追い抜きざまにコースを出ろという仕草をする。オイル漏れ?コース脇にバイクを止めるとスチームがボワッと吹き上がった。どうやらラジエター周りに昨日の転倒ダメージが残っていたようだ。雨と思った水滴もスクリーンの内側だった。

 

迎えた 15:20からの Race1。19番グリットからのスタート。今朝の問題はラジエター本体ではなくチューブ取り付け口ですぐに直すことが出来た。助かった。そしてレースの方は、2度目のクラッシュなどして土壺にハマらないように着実に走って、16位でフィニッシュした。もちろん攻めはしたが、ベストラップは 1:47.611で予選タイムを更新できなかった。ただ、それでも16位。これまでから考えれば 45秒台で走ってはじめてその辺りの順位だろう。リザルトを見返すと、今回は少なからずの上位陣が参戦していないようだった。ますますチャンスだったということか。歯がゆい。。

 

ともあれコースにも慣れてきて、とりあえず攻めることは出来るようになった。手応えも掴んで向上への楽しさを感じている。この感覚を得られるまで来たら、バイクセットを変えながらトライ&エラーを進めることになる。一度にあれこれ変えると個々の変更の検証が出来ないから、一つずつ試していくのが常道。ただ、今回の私にはもう Race2しかない。Pavと相談して理屈上考えられる変更を一挙に行った。Jason は一度に変えるべきではないとセオリー通りのことを言う。分かっている。ただ、今この時点で目指しているのはセットアップでは無くてポイント。ギャンブルをする機会だ。

 

f:id:RMARacing:20210217041432j:plain

Start at Race2

天国か地獄か

迎えた翌20日(日)は 14:30からの Race2のみ。今ラウンドのここまでは、前戦までの好調を一気に断ち切ってしまっているような状況。期待が拍子抜けした Bossey John は「You don't like this course.」と繰り返す。でも私はもう少し前向きに捉えていた。全くの準備不足なんだから当たり前だ。それでも 2日間でアタックが出来る状態まで来ることができたんだ。最後は時間切れで、丸1日かけて検証するようなセット変更を一挙に行ったが、それが当たってベストラップを更新して終われれば満足だ。

 

レッドシグナルが消えて、20番グリッドからスタート。いつものようにスタートは良くなかったが、そこまで悲惨でもない。スタートで抜かれたライダーをその周のうちに抜き返してオープニングラップを予選順位くらいで通過した。何より、思い切ってセットを変更したバイクが良い感じだ。ベストラップを大きく更新できる予感がした。やった、とうとうこの感覚まで来たぞ。最低でも 1分45秒台で終わりたい。感覚的にはもっと行けそうな気がした。チームの私への落胆を見返してやる。

 

3周目。Shell コーナー進入で#45 Tom STEVENS が抜いてきた。続くシケインで抜き返す。バックストレートも押さえる。邪魔だ!モードを切り替えてペースを上げるぞ、と思った2つ目のシケインから続く右コーナー。リアが流れて弾き飛ばされた。ウワッー‼ また転んでしまった。フォークの突き出しを増してウィーリーを抑え、アクセルを開け易くしていた。リアの荷重が落ちてスピンし易かったのだろうか。走り易かったのに…。私の感覚を裏付ける様に、わずか 2周目のラップタイムは既に、ここまでのベストの1:47.353を刻んでいた。もっと走りたかった。今の状況ではこれが限界というタイムを見たかった…。

 

f:id:RMARacing:20210217040338j:plain

Crash out at 3rd lap Race2

 

ちなみにこの、BSB オールトンパークランド Ducati TriOption Race2 は Youtube に上がっていた。そして私の転倒シーンもバッチリ映っていた。その転倒が映っている短いバージョンがあったので紹介 ↓↓↓ このレースでは実に 8台もクラッシュアウトしていて、ナレーターも、「Japanese Hiro Arazeki is one of them.」 と言っている。リザルトを見ると、いつもの中団のライダーが上位に食い込んでいた。上位ライダーが数名欠場の上、多くの転倒。まさにシングルフィニッシュを狙える機会だった…。悔しい。。

 

 

 

映像からも、コースは幅が狭くてアップダウンやブラインドだらけ、あちこちでフロントアップするのが見えると思う。先のシルバーストーンオンボード解説では、乗っている分にはストレートでは数字ほどの速さは感じないと言ったが、こういう状況では全く逆。勾配は映像より遥かにきついし、ライダー目線ではブラインドばかり。狭いコースにおけるリッターバイクのスピード感はハンパなく、ペースを上げれば上げるほどラインはどんどん細くなる。僅かなミスでコースを飛び出してしまう恐怖感の中、いわばイチかバチか攻めている。結果は天国か地獄か。

 

Today must be on Fridy!

レース後、バイクがレッカーされて戻ってきた。スリップダウンだからダメージは少ないと伝えていたバイクのダメージは思いのほか大きかった。タンクもサイレンサーもベコベコ。Jason は明らかに不機嫌だ。私だって転ぼうとなど思っていないし、だいいち大きな修理代は私持ち。そもそもチームとしての準備不足が全てなのにと思うが、大破したバイクを目の前にしては何も言えなかった。John は再び「You don't like this course. 」と吐き捨てる。唯一 Pav だけが、「レースに転倒はつきもの。マルケスだって転ぶんだから気にすることは無い。Today must be on your Fridy. 」と言ってくれた。

 

セッティングスペシャリストらしく物事をロジカルに考える彼は、今回タイムが出ていない時点でも「Because you are a fast rider」と何度か口にした。彼はタイムでは無く、その時点のバイクにおける私のコメントとサスやタイヤの状態から意見している。そして先ほどの「Today must be on Fridy」という言葉。つまり、準備不足の末の転倒だと言ってくれている。いつぞやのコラムで書いたが、その世界の一流というのは本当にすごい。バイクとライダーの状態を見抜いた彼のコメントには救われる。私は間違いなく、スペインでも有名な彼を信頼している。

 

なお、私が転倒直前に競っていた #45 Tom STEVENS は、その直後、4周目のカスケードコーナーで転んだ(Youtube映像でも、私の転倒映像の直後にそのシーンが映っている)。Tom は日頃のライバル #50 Matt STEVENS の弟なのだが、レース後 Matt がやってきて「Tomもここでのまともなレースが初めてで、今週末は Hiro と同じく2回転んだよ。このコースがいかに難しいかを再認識したよ」と言う。前戦では「Hiro は一段上」と言ってくれていた彼に今ラウンドでは大きく水をあけられていた(彼のベストは両レースとも 1分45秒台)。その彼にそう言ってもらえたのにも、大いに救われた気がした。

 

それに…、私は限界でダメだったのではない。まさに今、このチャレンジングなコースを攻略する楽しさを感じ出したところなのだ。あちこちでウィーリーするコースを、このレベルのライダー達は誰もがリアブレーキを多用しながらアタックしている。昇ったり下ったり、先の見えないコースを、彼らはバイクを躍らせ、操りながら走っているのだ。なんてコースだ。自分の最高レベルで攻め切ってみたい。本当に、Today must be on Fridy だ。もし来年スポット参戦しか出来ないなら、成績を期待できるトラックではなくて、敢えてここにしようかなとすら思っていた。

 

             ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー

Race1        19th           16位               92.94%
Race2        20th            DNF                   - 

 

 

f:id:RMARacing:20210217061634j:plain

撤収の片づけが終わり、Jason達は Super Bike 最終レースを見に行った。私も誘われたが、そういう気分でも無かった。帰路も長いしそろそろ出発しよう。トイレに向かってパドックを歩いていると、ふと KUSHITANI の富士山ロゴが目についた。近づくと日の丸と日本人の名前もある。んっ?現在 BSB に日本人は居ないはず。有名ライダーの新規参戦だろうか?表にまわってみた。

 
f:id:RMARacing:20210217061809j:plain立派なテントからちょうど日本人らしき女性が出てきた。会釈をすると「あー、Ducati に出てる日本人の方ね。私も日本人が出てるーって話してたのよー」と言う。Northern Ireland 在住の彼女はご主人がこちらの方で、少し前の名の知れたストリートレーサー。現在はマン島TT などを主戦場に活動しており、今回はライダー1人を連れてスポット参戦に来たらしい。Stock 600cc ライダーの彼はこのコースでのレースが初めてらしく、やはり転倒でレースを終えたよう。Wheelie everywhere!! と言うので、リアブレーキを多用するらしいよと伝えると、信じられない!と言っていた。それにしても立派なモーターホーム。こんな資金力で活動できるなんて凄い。

 

 

p>