ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.27 2019 BSB カドウェルパーク(Ducati Cup R6)

 

Step by Step

次の舞台はおよそ 1ヶ月後の 16-18 AUG 、マウンテンで有名な Cadwell Park Circuit(サーキット詳細は Vol.11 )。下の写真は今回のラウンドの最高峰クラスのもの。シェフにしろ、エンジニアにしろ、何の世界でも一流の方々というのは素晴らしい。表面には見えない、才能の上の努力や経験、その人の人生を掛けた蓄積がそこにある。私は、一つのスポーツの超一流がやっていることを理解できるレベルに居るだけでも幸せだと思う。

 

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私の参戦する Ducati Cup もトップは世界レベル。昨年のチャンピオン #1 Rob Guiver は元 GP ライダー。現在、クラスの参加台数は 30台弱だが、皆が感じるグループ構成は、その彼を含めた世界レベルのタイムを叩き出す 5-6 台が上位グループ、その次に 8-9 台の中位グループがいる。その後に 8-9 台の後方集団があって、5台ほどの下位グループと続く。Dani は中位グループの後方に位置し、私は前ラウンドでは下位グループだった。

 

その、前戦スネッタートンで私は、現在の自分の実力を思い知らされ、大きなブランクというものは一朝一夕に取り戻せるものではないことを痛感した。そして、Panigale という特徴的なバイクを速く走らせるライディングも学習しなければならないことを理解した。まずは見栄を封印して気遅れ感を無くすこと。そして自分の遅さを受け留めて向上の努力をすること。ステップバイステップ。この 1ヶ月で出来ることを粛々とやるしかない。 

 

もちろん周囲への見栄と内面の自信は違う。そしてレースにはアップな気持ちが必要。カドウェルはクラブレース時代に一度も勝ったことが無いサーキットだが、2016年の時は勝てるタイムは出していた(Vol.20)。そもそも峠上がりの私にとってこのレイアウトは苦手ではないはず。このトリッキーなコースは、長いストレートとコーナーの組み合わせのスネッタートンよりも Panigale 向きのはず。ポジティブな要素を集めてテンションを上げた。

 

1日おきのペースで Gym にも通い続けた。最近は、片足立ちでかかとを少し浮かせられるようになった。レースウィークまでに 2回の練習も組んだ。ここはロンドンから遠くて 2週連続はきついのだが、私はこのサーキットへの美しい往復の遠征路は好きだ。7月30日には ZX10R で個人練習に行き、 8月8日には Panigale でチーム練習に臨んだ。このサーキットにおける私の持ちタイムは 1分36秒台。これがとりあえずの目標タイム。

 

果たして、8日のチーム練習における Ducati でのタイムは 1分40秒台だった。目標タイムから 4秒落ち。まだ体は戻っていないし、Panigale ならではのライディングも習得できていない。ただ、練習の段階で既に前戦のレース結果と同じ程度まで来ているのは悪くない。チームオーナーの Jason も、前回よりだいぶ乗れていると言ってくれ、彼自身も安堵したようだった。一週間前に一人で練習に来たのが利いたように思う。

 

Improve 

8月16日(金)。いよいよレースウィーク。このレースには、2016年シーズン前のヘルパー募集に連絡をくれた友人 H が応援に来てくれた。Max は日本へ帰任してしまったが、駐在継続中の H とはその後も交流を続けていた。彼は忙しい仕事の合間に通った某名門大学の MBA コースを終えてやっと時間が取れたよう。興味の無い家族を無理やり連れてくるのは私と同じ。余計な見栄を張ってしまわぬよう、私の状況は先に話しておいた。

 

今回のスケジュールは、金曜日の午前に Free Practice があって午後に予選。続く土曜と日曜はともに午前に Warm up があって午後に決勝。それぞれの Race 前に Warm up セッションがある。金、土、日とも出走が 2回なのも良い感じだ。しかし、モチベーションを維持しながら迎えた初日金曜日、午前中の Free Practice は雨になった。出鼻をくじかれる。本当に英国の天気には気持ちを乱される。生まれ育ったイギリス人は何も感じないのだろうけれど。

 

と、Jason が Free Practice への出走取り止めを勧めてきた。私は当然のごとく、午後の予選もウェットの可能性が高いのだからと出走を希望した。しかし、転倒すれば修理が間に合わないと言われて迷った。確かにしょせんウェットは気持ちの面が大きい。仮に予選がウェットでも、先日の練習で得た良いリズムのまま走った方が得策かもしれない。すごく迷ったが、予選に出られなければ全てが台無しになる。Free Practice 出走を諦めた。

 

Free Practice 終了後のパドックで、内紛から他チームに移籍したトップライダーの Phil(Atkinson) に会った。彼は Free Practice トップタイム。私が出走しなかったことを知ると「間違っている。ここは BSB だ。Phil がそう言ってたと Jason に言っといて」と言われた。ただその後雨は強まり、スケジュールがどんどんズレ込んで Ducati の予選は翌日に持ち越された。明日は晴れるらしい。過ぎたことはいい。彼の言葉は伝えなかった。

 

8月17日(土)。9時から 20分間の予選。コースはまだ濡れている所も有るが、概ねドライコンディション。私の調子もそこそこで、結果は 27台中 19位、タイムは 1:41.550 だった。練習の時より 1秒遅いがコンディションがパーフェクトではないので直接の比較はできない。事実、私の前の 5人とのタイム差は 1秒差以内。前戦の Snetterton では背中すら見えなかった後方集団のライダー達にピタリと付けている形。及第点に思う。

 

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予選がこの日にずれ込んだために Warm Up セッションは無くなった。迎えた 15時15分からの Race1。完全ドライコンディションでのレース。結果は完走 21台中 18位。前戦の17位より悪い順位。後ろはたった 3台しかいない。でも内容が違った。タイムを 1:38.377 まで詰めて、持ちタイムから 2秒落ち。これは初めてのこと。事実、前でフィニッシュしたライダー 5人のベストラップとは 1秒差以内。さらに、レース終盤では前の集団にどんどん追いついて、あと数周あったらという展開だった。進歩している実感が有った。

 

初ポイント

8月18日(日)。天気は良い。10時45分からの Warm up セッションに臨む。たったの 10分だが無いよりは全くいい。17時20分からの Ducati Cup Race2 は、この BSBラウンドの最終レース。多くの観客が帰り支度を始めたころ、予選 20番手からスタートを切った。後方集団を交わすには射程圏内に留まっていなければならない。序盤からペースを上げて喰らいつく。そして1台、また1台と抜く。そしてなんと、ギリギリではあったが後方集団のトップでゴールした!

 

Race1 後の手応えの通り、完走 18台中 12位。初ポイント(4P)ゲット! リタイアした上位ライダーも多かったとはいえ、前に 10名ほどしかいないのは悪くない。ベストラップも1:38.214 で Race1 のそれを更新。バイクに取り付けている計測器では 37秒台に入っていた。持ちタイムから1-2秒落ち。強烈なトップのレース Fastest Lap からも 6秒少々の差。何より、予選、Race1 で前に居た 5台、スネッタートンでは 30秒とか1分とか笑える差をつけられたライダー達を全て抜いた。

 

レース後のバイクプールでは前戦とは打って変わって爽快感を感じた。後方集団のライダー達から「Good ride」と祝福を受けた。ただ、うれしいというより、ホッとした気持ちが強かった。前戦ではまともに絡むことすら出来ずに打ちのめされた。しかし今回は後方集団のバトルに加われたばかりか、その集団のトップでチェッカーを受けた。私もこのレースの一部に存在したんだ。ここに居てもいいのだな。よかった…。本当にホッとした…。

 

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絶望しそうな気持を封印し、ただ出来ることに取り組んだのが功を奏した。次の目標はこの位置をキープすることになろう。そして、Dani を捉えて中位グループのライダーに喰い込みたい。来年が分からない上では出来ればシーズンが終わるまでに。。それが当初に予想していた位置なのだから。ただ、残りはたったの 2ラウンドで、次は未知のアッセン。現実的には難しいだろうけれど結果は結果。Just keep trying on. 

 

            ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー

Race1      19th            18位               92.82%
Race2      20th            12位               93.15%

 

レース後、この日の TVコメンテーターだったニールマッケンジー氏がレース統括をする中で、私についてコメントをした。場内放送でも聞こえ、友人 H が「おっ、ニールマッケンジーが Hiro さんのことを話してる。すごい」と言う。誰?という顔の嫁たちに H が「新沼謙治じゃないからね」、と我々には聞き古されたギャグを振る。

 

もちろん、興味も世代も違う嫁たちには全く通じない。キョトンとする彼女たちを見て H が「えっー、この定番ギャグが通じない!? マジ通じない? あっそー通じないの? ホントに? 」と、笑いながらのしつこいリアクション。面白かった。新沼謙治という当時それなりに有名な演歌歌手が居てね、などと説明する気にもならなかった。

 

帰宅後に見た TV でもそのコメントが聞けた。ただ彼はアナウンサーに「遠い日本からの遠征は大変だったろう。週末だけでこの難しいコースを攻略してすばらしい」と話している。どうやら私が英国在住で、ここでのレース経験が有り、2年前に話したこともある日本人(Vol.23)とは理解していないよう。つまりその賛辞には値しないのだが、まっ、いいか。

 

レース映像の方は、当然ながらトップ争いを映す。後方の私は何度かチラッと映っただけ。それでもうちの Boys は大喜びだった。まだまだ自分の場違い感はぬぐえないし、楽しいなんて言えないけれど、ほんの少しだけ、BSB という世界中のライダーが憧れる舞台にいる喜びを感じられた。今回もこのような大観衆だった。↓↓↓

 

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