ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.25 夢の続き 

 

バッドラック再び

しかしどうしてこうなるのか。やっと体が出来上がってきた 2月の中旬、その日も Gym でいつものメニューをこなしていた。鉄アレーを持った踏み台昇降。振り上げた右足から勢いよく床に降りた。その瞬間、良く言われる、ブチッ!という大きな音がした。なんと、今度は右足のアキレス腱を切ってしまったのだ。左足が不自由だった長い間、全ての負担が右足に掛かっていたということか。だからインストラクターも付けていたのに。。

 

また松葉杖生活に逆戻りになった。とりあえずの状況まででも 4,5ヶ月かかることはつい先日経験したばかり。いたたまれない気持ちの中で Jason に怪我の報告をした。そして、どんなに早くても復帰は 6月の第4戦になると伝えた。Jason は 私の復帰までの臨時ライダーを探すと言っていた。チームの収支上、バイクを遊ばせておくわけにはいかない。当然のことかと思う。

 

でもそのライダーが速かったり、スポンサーを持っていたりして継続参戦を望めば、私のシートは無くなるだろう。一週間前に我が家へ体の採寸に来てくれたチームスポンサーのツナギメーカーにも連絡をして、作成を中断してもらった。無駄になっては申し訳ない。担当者は「Chin up Hiro!  Not end of the world!」と言って慰めてくれた。確かに世界は終わらないけれど…。

2ヶ月少々で舞い戻った NHS(病院)の看護師さん達が、エッ? なんで右? 左じゃ? エッ?と驚いていた。Doctor は「2本切ったから、もう切るアキレス腱は無いよ」と笑う。いやいや、有り得るし。。もちろん看護師さんも先生も、そして妻も「やっぱり歳でしょ」と付け加えることを忘れない。それを言っちゃーおしめぇーよ。いくら待ったって今より若い時は来ないんだから。

 


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こうして 2年の歳月を経て手繰り寄せた新たなバイクロマンは、去年に続いてついえた。これもまた人間万事塞翁が馬というところか。万事は幸も不幸も無い。全ては見方次第なのだから、幸を求めて意気込んでもしょうがない…。いろいろな解釈のできる深い格言。それでも私は(自分なりに)出来ることはやりたいと思ってしまう。どんな結果でも受け入れられるように。

 

私のシートは・・・ 

 

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4ヶ月が経った。それは不便な日々だったが、連続 2回目のアキレス腱断裂ゆえ、松葉杖での生活の要領は分かっている。毎日自分で打たなければならない注射には慣れないが(何とかならないものだろうか)、昨年のような強烈な苦労は感じずに順調に回復した。そして 6月の中旬ころから再び Gym に通えるまでに回復した。今回はインストラクターは付けず、自分でメニューを考えた。

 

怪我をした時のインストラクターの Paul は、ストロングマン大会に出ている大きな体の男。私より年上だが現役で頑張っている。今でも会えば「Hi Hiro」と言ってくるが、それ以上は踏み込んでこない。レースのことどころか、怪我の回復具合さえ聞いてこない。私も「Hi Paul」と返すだけ。渡英以来、この流す習慣には馴染めずに苦労したが、最近は前向きにも捉えられるようになった。

 

体の目途が立ったころ、チームに 7月後半の第5戦の Snneterton Round から出走できそうだと連絡を入れた。Jason からはスポット参戦のライダーが見つかったことは聞いていた。私は用なし、の返事も覚悟して連絡した。だが予想に反してシートは残っていた。その臨時ライダーは資金的にそれ以上続ける余裕が無かったよう。シーズン半ばでフリーなライダーはそういうことなのかもしれない。

 

それどころか、チームに内紛が有ったようで、Phil も Andy も居なくなっていた。まず Andy に資金ショートが生じてリストラ。私と Andy が居ない収支の中で、トップライダーの Phil はあくまでサポートを希望したために、支え切れずに手放したという。その他の経緯もあれこれ聞かされた。その後を通して『イギリス人はゴシップ好き』と言われる所以を知ることになるが、そこは私には馴染めない。

 

ブランクというもの

BSB Ducati Cup 第5戦は 2019年 7月19日(金)から始まる。7月8日(月)にはチームの練習走行がある。その前に感覚を取り戻そうと、7月初日、愛車 ZX10R で練習に行った。果たして、レースを離れて 3年近いブランクは長過ぎた。はっ、速い。怖くてアクセルを開けられない。アクセルを全開にできなければ練習にもならない。2015年にこのバイクに乗り出して以来初めて、ドライコンディションで Power モードを一つ下げて走った。

 

 

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7月8日(月)のチーム練習で初めて Panigale 959 に乗った。これまで知るバイクと全然違う。エンジンは回らず、ストレートで何度も頭打ちした。エンブレが強いのでコーナーの侵入では(下の方のギアは特に)一速ずつ確実にシフトダウンするらしいが、ストロークが長くて何度もギヤ抜けした。かつて 916 で感じたしなやかな軽快感も全く感じられなかった。僅かに保っていた自らへの期待が断たれた。

 

今回の練習には 去年このチームで走っていた Bruce という 30才のアメリカンライダーも来ていた。騒動の後でバイクを 1台売却したらしいがまだ 2台ある。私のコーチ役という名目で Jason が呼んだらしい。本当は残りのシーズン、彼に参戦して欲しいのだろう。ただ彼も資金面から参戦できても Assen だけらしい。Bruce はまさにアメリカン。よくしゃべるし自信家。でもおかげで良い練習をさせてもらった。

 

ちなみにこの日はスコットレディング選手も練習に来ていた。昨年まで Moto GP が戦場だった彼は、今年は BSBスーパーバイクに参戦している。2回ほどコース上で遭遇したが、他のライダーを縫うように抜いていった。彼のライディングフォームは完全に現代流。アクションが大きくてインパクトがすざまじかった。(ライディングフォームについてはいずれのコラムで考察したい)

 

 

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本番まで10日。全く Ready ではない。苦手ではないはずのサーキットでの不甲斐無さには更に自信を削がれた。これがブランクというものか。ブランクは気持ちの問題だと思っていたが、気持ちを高めようにも体感がついてこない。レースにおいては気持ちのコントロールは重要なファクターだが、今の私はそれ以前の問題。不確実な希望ばかり探さず、まずは自分の位置を受け入れなくてはならない。

 

ただ、受け入れるにもプロ選手権のレベルすら分からない。クラブ選手権のトップレベル以上のライダーが集っていることは分かるが、Bruce によれば、上位には元 GP ライダーも居るらしい。ヘタするとドン尻かもしれないな。でも、Dani が中盤を走っているではないか。4年前の 2015年シーズン、私は彼より断然に速かった。本当に、それだけが心の支えだった。心も体も全く準備が整わないまま本番の日を迎えた。