ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.40 シルバーストーン Video

 

TV放送

「いま、Hiro Arazeki って言ったよ!」Virgin TVを通してよく Youtube を見ている 6歳の次男が叫んだ。んなわけないだろと思ったが、Silverstone Race2 が Youtube に上がっていた。EURO Sports TV の放映キャプチャーを誰かが上げたのだろう。ホントだ。一緒に見た。私が日頃 TV放送に興味が沸かない理由でもあるが、レース中継は当然ながらトップ争いを映すので私はほぼ出てこない。それどころか、自分の力不足を目の当たりにすれば戦意を損なう可能性だってある。この映像にも、私の恥ずかしい限りのスタートと、ラストラップの最終コーナーで逆転を狙うも及ばなかった2つの失敗シーンがバッチリ映っていた。息子が言う。「パパあんまり映ってないね。今度、前の方走ってみれば?もっと映るんじゃない?」

 

まったくもって喜んでお見せできるものではないけれど、30分近くあった映像を、1周目と最終周に絞って編集したものがこちら ↓↓↓。コメンテーターは、あの Neil Mackenzie 氏。無観客の今年は例年なら大観衆で埋まっているはずの後方のスタンドはガラガラ。海外の大観衆の前で走るという身に余る環境を得、レース人生の集大成としているのに何とも残念な限りである。私のグリッドは 6列目、画面に向かって右側。その悲惨なスタートは 0:58から。 このスタート後の数秒間でいったい何台に抜かれているというのか。その後いくら頑張ったって上位に食い込めるわけがない。

  

 

 

最終ラップのシーンも情けない。2:46 からの映像は、バックストレートで Matt に抜かれた後の左コーナーから右へと切り返したコーナーの入口から。短い切り返しではインに飛び込めなかったが、追突しそうなほどアドバンテージが有った。自信のある最終コーナーからゴールライン前までにかわすべく、ラインを大きくアウトに取った。しかし、このコーナーの回り込みは深かった。アクセルを早く開けるどころか逆に微妙な間が空いてしまった。新型バイク相手にこの差は致命傷。完全な判断ミス。往年の芳賀選手のような Tail to Nose で立ち上がって、初めて逆転の可能性も生まれたのかと思う。

 

レース結果の映像では、東京から来た私がポイントを獲得したとサラッと触れてくれている(4:09)。今回のレースでは、前戦スネッタートンではバトルをし、Race1、Race2 ともに私のひとつ前でゴールした #17 Carl STEVENS が、自己ベストの 4位を獲得した。そう、レースタイムを見ても分かる通り、上位数台が抜けているだけで、その他のライダーには、スタートや展開次第で上位に食い込むチャンスが有るのだ。雨などで上位が戦線離脱すれば表彰台だって有り得る。昨シーズン、私が復帰する前の雨のドニントンで、長年のライバルの Dani が 2位表彰台を獲得したように。ともあれ Congratulations Carl! 

 

一方、トップ争いの Josh DAY と Livi DAY が最終ラップに入った直後の1コーナー、ラップされているのは(1:34)、今回初参戦のチームメイト Tom。20代の彼はクラブレースでの好成績からこのラウンド以降の参戦を考えていたが、父親のような歳の私にも及ばず、生まれて初めて周回遅れにされたことですっかり意気消沈してしまった。「レベルが高いだけだよ。今回は完走で十分。若いんだから徐々にいこう」と慰めたが、大きなお金もかかる参戦決意には強いモチベーションが必要。この映像も彼のモチベーションを更に削いだに違いなく、結局 Tom はこれ以降のラウンドには参戦しなかった。

 

評価が上がっている

ともあれ、ここまでの 3戦を通してチームの私への評価と期待は明らかに高まっていた。色々なライダーを見ているスペイン人のサスペションスペシャリストの Mr Pav は最近、セッティングの話をするときに、「Because you are a fast rider」とよく口にするようになった。時々手伝いに来てくれる少し Bossy な 60代の John も、「第1セクターのタイムは Top 5 に入ってた。俺達がトップライダーにしてやる」と前向きだ。

 

John はいい歳ながら悪童のような性格。F ワード連発で口は悪いし、時に「オイ、オイ」と思うような悪いこともする。Jason はいつも John に追従し、2人は Gossip 好きで仲が良い。当然一緒に居る私も同調を求められるが、流されてしまう若造でもない。「I don't like such things」と言って距離を置いている。ただ、そんな John のリタイヤ前の職業は刑事というから驚きだ。メチャクチャしても屁理屈を並べて正当性を主張するふてぶてしさを見ていると、イギリス社会を生き抜く術が見えるような気がする。まあ、Pav を入れてオッサンばかり 4人のチーム。傍から見れば私も同じ穴のムジナかな。

 

パドックで顔の広い John は「お前の課題はスタートだ。アドバイスを受けろ」と言って、私のレースを一緒に見ていたという 2015 BSB Super Bike チャンピオン、今年もチャンプ候補の Josh BROOKES選手をテントに連れてきf:id:RMARacing:20210218005002j:plainてくれた。 Josh 選手は気さくな人柄で色々話したが、スタートの指南というよりはほぼ雑談とブレーキパッドについて。彼は現在使っているパッドが気に入らないようで、私がブレーキの重要なセクターで Top 5 に入っていたことで私の使うベスラに興味を持ったようだった(後日 Vesrahさんに紹介した)。現在 37歳のオージーの彼は、美人モデルの奥さんとカドウェルパークの豪快なマウンテンジャンプが有名。King of Mountain の異名を持つ。Vol.11 と Vol.27 の写真も彼。

 

話は戻るが、チーム内だけでなく、クラスにおける私の評価もその時点のランキング 14位という成績以上に上がったように感じた。ラウンド中、他のライダーが Jasonと話しているときに私を称賛しているのを何度か聞いた。また、旧知の Host-it 社長 Andrew を通じて話す機会の多かったチャンピオン Josh Day に加え、他のトップライダー達も話しかけてくるようになった。こちらの人間は分かり易い。それは私を ”話すに値する相手” と捉えているということ。昨年はこちらがフレンドリーに話しかけても、話しかけるな、といった雰囲気を発するライダーも少なくなかった。まあ、クラブレース時代もそうだったが、根底に Racism がある上では全員と仲良くとはいかないのだろう。

 

それにしても、ライバル Matt STEVINS と Jason を交えて話していた時の彼のコメント、「いつもグリットは Hiro が上で、糞スタートで消えて、中盤に追い抜かれて俺らが追う、というルーティンが出来上がってるよなー」が全てを言い表している。Matt は更に「Hiro はスタートが良ければ早々に中団から消えてるぞ」とも言う。彼には今回を含めて何度が苦水を飲まされているが、私の速さを認めてくれている。前戦では、「抜く前しばらく後ろ走ってたよな。俺はどこがイマイチだった?今回は明らかにペース差が有るから聞いてもフェアだろ?」と少しバツ悪そうに話しかけてきた。彼は純粋にレースを愛し、向上心を持ち、ブレることなく長年 TriOption Cup 参戦を続けている。私も彼を大いにリスペクトしている。

 

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Matt の言うことについては、私もそう思っている。やり方は分かっているのにこれだけひどいのは、技術うんぬん以上に、そのための気合が入っていないからだと思う。私はクラブレース時代はほぼ毎回フロントロウだったが、グリッドに着いた後のスタートまでの時間がエキストラな緊張で一杯だった。エキストラの理由は色々あったが、いずれにせよそのレベルではスタートで出遅れても1,2周でトップを奪い返せた。従って私は、問題を何とかしようと焦らず、安全に走り出しさえすればいい、気合を抜くんだ、と、現在求められているのとは逆の精神状態を作る鍛錬をしてきた。もし私のグリッドがいつも何列目かであったなら、スタートスキルも上がったように思う。こう書いてしまうと言い訳がましいが、スタートは奥が深いのでいずれの機会に詳しくお話ししたい。

 

シルバーストーン フルコース

こうして第3戦シルバーストーンラウンドは終わった。 初めてのコースレイアウトながら、想像以上に良いペースで走れたことには自分でも驚いている。前戦のスネッタートンもそうだったが、何だかんだ言っても私はやはり、走り込んでいるドニントンパークは別として、コース幅が狭くて山あり谷ありの UKタイプのトラックよりも、見渡しが良くて思いっきり走れるフラットタイプのトラックの方が得意みたいだ。日本に居る時から知っていたドニントンとシルバーストーンが得意だなんて、思えば感慨深い。

 

そのシルバーストーンのフルコースは 7月11日(土)に練習で走ったが、Vol.35 でお約束した通り、その際に撮ったオンボードビデオを紹介したい ↓↓↓。この日は実質的な私の今シーズン初走行として走り自体はまだまだ馴らしレベルだが、それでも天気が良くて一日中走れた分、前回 Vol.36 で掲載したオンボードビデオ、ドニントンのインラップ一周よりは遥かに見れると思う。映像にはタコメーターも写っているので、ZX10Rのそれとして見て頂けたらと思う。なお、編集が面倒で長いままです。みません。

 

 

 

 

映像の序盤に絡んできている 2台のバイクは闘志むき出し。 1,2周はウォームアップだというのに抜き返してくるのでやりずらかった。でも彼らの様に、相手がレーサーと判ると目じりを釣り上げて挑んでくるライダーは多い。レースをしていなければ、ましてや自信があって楽しさ一杯の若者ならば、こうした機会が腕の見せ所なのだから分からないでもない。私も若かりし日、サーキットを走り始めたころは自信満々だった。入れてもらったレーシングチームでの初遠征では、その後全日本に進んだ先輩相手に負けるわけがないと挑んで、即ハイサイドを喰らって大怪我をしたっけ。。

 

それにしてもこのコースは長い。そして高速だ。日本の鈴鹿も長くて高速と言われるが、全長とラップタイムの関係を見る限り、シルバーストーン鈴鹿よりもさらに高速と言える。有名なハンガーストレートも長くて、私の1000cc Stock レーサーバイクだとストレート終わりでは時速 300km 近く出ていると思う。映像で見てもそうであるように、乗っている分にはそこまでのスピード感は無いのだが、ひとたび振られたり、コースアウトしたり、転倒でもしようものなら、人間の動態能力をはるかに超えた速さに居たことを痛感することになる。

 

下の写真はそんな高速コースにおいて最も低速になるシケイン。Vol.33 のライディングフォーム探求でも説明したが、エディーローソンのフォームが憧れだった私のそれは極めてオーソドックス。頭がバイクの中心線上にある。それでも、敢えて広げていない膝が路面に当たってしまう位置に居て、頭の下から路面まではヘルメット3つほど。乗っている本人からすると路面を間近に見て走っている。しかし昨今のトップレーサーの頭の位置は地面からヘルメット1つ、2つ。膝どころか肘をすっている。今皆さんが座っている目の前の机が路面の様な位置関係。その目線で、路面上を時速 200kmで滑っている。

 

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さあ、パンデミック下の特別なシーズンも折り返しを過ぎた。調子は上向き、いよいよトップ10 を狙うぞ! …と言いたいところだが、実はここからが問題。残る 2戦はオールトンパークとブランズハッチでどちらも知っているサーキットながら、今回は共にレース経験のないレイアウト。思えば今シーズン全 5戦のうち、実にスネッタートン300 を除く 4戦が初レイアウトだ。このレベルのことである。当然ながら計画的な準備を進め、少なくとも、全力で走れる状態でレースウィークエンドを迎えなければならない。しかし、各ラウンドの日程が近い中で Jason に先々のラウンドまでを見越した予定を理解してもらうことは難しかった。そして必要な準備が出来たのは今回までだった。

 

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