ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.3 クラブレースって?

ACU ライセンス

2014年8月、ともあれACUライセンス(日本のMFJライセンスに当たる)を取ってみることにした。バイクを持っていないので、いつもR.M.A(私が半分趣味でやっているバイクロマンサポート)のツーリングサービスでお世話になっているレンタルバイク屋(ABOUT TOWN)さんに相談してバイク(Yamaha XJ6)を借り、家族旅行を兼ねてCadwell Park というサーキットで行われたライセンス講習会に参加した。

 

ロンドンから片道4時間f:id:RMARacing:20200414085859j:plain以上、国定公園内にあるサーキットへの道中はとても美しく、家族の車と並走ではあったが、それだけで久しぶりに楽しいツーリングができた。まるで峠道のようなコースには驚かされたが(後々レースではいろいろ苦労することになる)、芝が青くて気持ちの良い体験走行が出来た。そして無事に『2015 ACU競技ライセンス』を取得した。

 

ちなみに本当はこんなに遠いサーキットまで行かずとも、ブランズハッチやシルバーストーンといったロンドンから近いサーキットでも受講は可能だった。ただ調べた時点で今年最後の講習に見えたので慌てて行ったのだが、順次翌月の講習日程が追加されていた。バイクに限らず、知らない土地で一人で何かをするのは何もかもロスが多くなる。まっ、それもいいか。おかげで知らないイギリスのリゾート地で家族でキャンプ出来たし。。。

 

クラブレース

 

f:id:RMARacing:20200414094122j:plain

クラブレース?はじめはショップか何かのイベントかと思ったが、程なく、イギリスのアマチュア選手権がレーシングクラブという民間組織によって催されていることを理解した。中でもThunder Sports GB、BMRC(通称Bemsee)、No Limits、NG Road Racing、Hottrax(翌年にスキャンダルで消滅)という5団体が大きく、それぞれが国内中のサーキットを転戦する形で毎シーズン8~10ラウンドを開催している。そこでの成績によってライセンスが Novice → Clubman → Nationalとアップグレードし、Clubman以上の速いライダーにはBSBチームからのオファーがかかるなり、自分の意思なりでプロになっていく。

 

2014年9月、クラブレースなるものの雰囲気を見てみようと思い立ち、仕事の合間を見て観戦に行った。いくつかのクラブレースを見てまず思ったことは、どこもやたら本格的なこと。大きなモータホームさえ並んでいた。さすがに観客は少ないものの、パドックの景色はプロ選手権のそれとさして変わらない。そしてそれ以上に目を引いたのが、スポンサーのロゴを背負ったいかにものライダーから、ツーリングクラブかという若者グループ、白髪交じりのおじさん達まで居たこと。様々な立場の人々がバイクレースという同じ目的を通じて楽しんでいる。本場イギリスのバイクレース文化の深さを感じた。

 

私もこの世界に入ってみたい、きっと彼らを打ち負かせるに違いない、という気持ちがムクムクと沸き上がってきた。まだバイクもトランポも何もないけれど、TV放映されるThunder Sports GBは捨てがたいなぁ、でも参加するなら、Ronさんのスクールで走り慣れている Donington Park と Silverstone International が来シーズンのカレンダーに組まれている No Limits Racing かなぁ、などと想像を膨らませた。

 

ちなみにどのクラブにも、80~90年代の750ccマシン限定のクラスや、2ストロークマシンのクラスなどがあったが、それらはほぼリタイヤしたおじさん達の趣味のクラスといった感じだった。イギリス人達は皆、サーキットを走るのに何でそのために作られているバイクに乗らないの?と言わんばかりに最新レプリカに全く気後れが無い。むしろトラクションコントロールやクウィックシフターといった最新技術を楽しんでいる。

 

実は私は日本を離れるころ、まだ30代前半にも関わらず、今さらバリバリは…と言いながら(周りの友人もそうだった)、鉄フレームの空冷バイクを必要時だけレース仕様にして楽しんでいた。今回もそうしたクラスに出る選択肢も有るわけだが、今の私にはその判断はクールに思えなかった。そうだよな、どうせ無茶してこの国でやるなら『言い訳無しのクラス』にするべきだよな、と思っていた。

 

ただし! 私の GPz750F ↓↓↓(もちろんWiseco 810cc )はハンパなくかっこいいのです!

 

f:id:RMARacing:20200414090840j:plain

 

トラックデイサービス

2014年10月、自身の参戦意志を確かめる(高める?)ために、とりあえず知らないサーキットを走って見ようと思い、サーキット仕様のバイクを1日単位で貸してくれるサービスを利用して、Snetterton(スネッタートン) Circuit のTrack day(トラックデイ)に行った。

 

イギリスでは日本で言うところのサーキットスポーツ走行を Track day と呼ぶ。そして、日本のスポーツ走行が主にレースに向けた練習など、本気度の高い人達を対象としているのに対して、ここでは基本的にレース参戦意志など全く無い、街乗りやツーリングが主な一般のストリートライダーを対象にしている。レースのための練習は Test day(テストデイ)といって、Race weekend 前の金曜日などの限られた日のみに設定されている。Test day は一般のライダーも予約可能だが、概ねその週末にレースに出場するライダー達によって早々に完売になる。

 

私はこの後バイクを取得してから Track day に通うわけだが、初めの頃、走行後に何度もオフィシャルに怒られた。時に失礼じゃないかと思うくらい上から。はじめ何が悪いのか全く分からずに戸惑ったが、後になってインから抜いてはいけない、と聞いてびっくりした。通常の Track day ではコーナーのブレーキングでインから抜くのは禁止。追い越しは基本的にストレート。相手がバイクを起こすような抜き方をしたらペナルティーを受け、2回受けるとその日は退場となる。タイム計測やピットボードの使用すら禁止されている。いかに Track day が一般のライダーを対象にしているのかが分かる。

 

イギリスではサーキットは特別な人たちが特別なことをする場所ではなく、全てのライダーが楽しみに行く場所なのだ。この国は地形的に日本のような峠道が無いからかもしれないが、ゆえにサーキットを走ることが日常。日頃から走っているのだから上級者たちのレースに興味が生まれて足を運ぶことになり、この国のモータースポーツ文化の醸造に繋がっている。また、普通のバイク乗りがサーキットを走る機会が多いのだから、欧州で最新レーサーレプリカマシンが売れるのも当然なのである。

  

f:id:RMARacing:20200416072450j:plain

当日の朝、サーキットのパドックでバイク(Yamaha R6)を持って来てくれた代表のPaulに会った。1走行目の後でフロントの底突きを訴えると、Paulは私にいくつかの質問をしながらパパッとセットを変えてくれ、2走行目では嘘のように走り易くなった。ただサスを固めただけではない。この理解度はただ者ではないと思って聞くと、彼はBe Wiser KawasakiというBSB(全英選手権)有力チームの監督だった。

 

その日はインストラクターを午前と午後に1回ずつお願いした(Track day には必ず何名かのインストラクターが居て1セッション£25程度でコーチングしてくれる)。だいぶ走り慣れた午後のセッションの途中、インストラクターが前を走ってみろという手招きをする。前に出る。ストレートで自然にヘルメットがタンクにコツコツ当たる。いつも伏せよう伏せようと思うのにビックリ。乗れているというか、とにかくR6 が乗り易いのだ。恐るべしPaul。しばらくして我に返って後ろを振り向くと、エッ?インストラクターが居ない。図らずもインストラクターを振り切ってしまったのだ。バツ悪くピットに戻ると、先に戻っていたインストラクターが「ナイスラン」と言って出迎えてくれた。

 

後でPaulから「インストラクターが君はレースした方がいいって話してたぞ。シニアインストラクターがそういうことは余りない。迷ってるならやったらいい。」と言われた。私が「そういう気持ちはあるのだけど色々勝手がわからない。そもそもレースバイクさえどう入手したらよいか分からない」と言うと、「うちのバイクは売れてしまったけど、知り合いが今年のBSB Super Stock 1000チャンピオンマシンの売却先を探しているはずだから連絡して見れば?」と言って、SMT RacingのAlec Tague氏を紹介してくれた。BSBのチャンピオンマシン? 私が? そんなマシンは普通は身内で売れてしまう。私など相手にしてくれるわけがない。