Vol.7 第2戦 オールトンパーク
Oulton Park Circuit
オールトンパークサーキットは、ロンドンから北西方向に4時間、中世の城壁が街全体を囲む Chester(チェスター)という美しい街の近くにある。コース全長 4.307 km。丘陵地帯にある典型的なイギリス型ヒストリカルサーキット。コース幅は広くなく、アップダウンを繰り返しながら丘と林の中を縫うテクニカルなレイアウトは2輪向き。カドウェルと並んで多くの一般ライダーに愛されているコース。日本人にはなじみの浅いタイプのコースだが、BSB Superbike 全盛期の清成選手は得意としていた。
プレッシャー
2015 NLR 選手権 R2 Oulton Park は 4月10-11日に開催される。クラブレースが予想以上にタフなことを知った前戦から3週間しかない。オールトンパークは有名なコースだが走ったことが無い。テクニカルコースと聞く。ライバル達と渡り合えるように何とかしなくてはならないが、何とも痛いことに今回はレース前日のテスト練習日が無い。有無を言えず、3週間の間に唯一有った Track day に行った。
ロンドンから休憩を挟んで片道4時間弱。遠い。受付開始は午前7時半なので家を3時に出て7時に到着。車の外気温メーターはマイナス表示。オールトンがホームコースと言うクラストップライダーの Cookie は「最高のコース。Hiroも気に入るはず」と言っていたが、私の第一印象はイマイチ。印象は初めて訪れる時の天候で大きく変わる。今日は重い曇り空。薄暗くて寒々しい。
受付スタッフに中に No Limits 代表の Mark(Neate)氏が居た。実は No Limits はイギリス最大の Track day オーガナイザーで、選手権はその知名度を生かして後から始めたもの。Mark はダンディーな容姿のおじさんだがお茶目なところがあり、前戦でも私や私の家族に冗談を言って絡んできた。
今回も私を見つけるなり受付の女性スタッフに「おっ、スーパールーキーが来たぞ。今年のチャンピオンにサインもらっておけよ」と私に聞こえるような大声で茶化した。並んでいる周りのライダーからの視線を受ける。やめてよー、傍から見るほど簡単に勝ったわけじゃないし、それでなくてもレギュラー陣を打ち負かしたことで余計にプレッシャーを感じているのに。。。
セッションは9時から始まった。第1セッション終了。マジかよ、何だこのコースは。アップ&ダウンが激しくてブラインドコーナーばかり。1000ccの速さだと、流しているだけでも、どこでも飛び出してしまいそう。アクセルをちょこっと開けてはすぐ閉めて走る感じだ。このコースは到底1日で攻略できるようなところではない。
特に最終右コーナーから一度谷を下って駆け上がるホームストレートは、登り切る辺りから左にカーブしている。ストレートへ続く個所はいかに早くアクセルを開けるかがカギだが、それを切り返しながら行うことになる。バイクが振られてハラみでもしたら、右のピットウォールに激突だ。↓↓↓ でも今日が終わったら次に走るのは土曜日の予選本番だ。マズイなーこれは。。大きな焦りを感じた。
季節外れの雪
とにかく残りの 5、6セッションのうちにせめて必要な場所でアクセル全開できるくらいまで持っていこう。それくらいまで理解すれば、とりあえず速い奴についていけばお話くらいにはなる。気合を入れて第2セッションに臨む。がぁぁ、切羽詰まった決意をあざ笑うかのようにいきなり雪が降り出した。たまらず引き上げてピットガレージで待つ。雪はどんどん強くなる。せめて雨になってくれ。走らせてくれ。。
Youtube のオンボードビデオで勉強をしながら待つ。雪は午後になってもやまない。遠くに見える芝生エリアがだんだん白くなっていく。多くのライダーが走行を諦めて帰っていく。私は車の中で暖を取りながら、最後の最後まで天候の回復を待った。だって今日しかないんだ。。。しかし結局、その日、雪は止まなかった。
本番まで唯一の練習の機会を失ってしまった。私は全くコースを理解していない。それどころか下手に1セッション走ったことで、アクセルをまともに開けられなかった絶望感だけが残っている。イギリス人であるライバル達は当然この有名なコースを知っているはずだ。これでは戦えない。何より、慣れないうちにこのコースで1000ccマシンのアクセルを全開にしてレースするなんて危なすぎるではないか。
今回のラウンドは日程上2レース(通常の週末は4レース)しかないようだし、次の第3戦はロンさんのスクールで良く知っているドニントンパークだ。ここで無理して転んで怪我したりマシンを壊したりせず、そこで勝てばいいのではないか。時にはそういう判断も必要だ。自分にそう言い聞かせて欠場を決めた。
欠場。冷静に賢明な判断をしたつもりだが、心が晴れない。そうした理屈以上に、情けない走りをしてデビュー戦の華々しい印象を崩したくない、出るからには勝ちたいし最速で居たい、という見栄のような気持ちがあったのも事実だったからだ。
ただどの選手権を見てもチャンピオンが全てのレースで優勝できるわけではない。うまくいかないラウンドで、いかにダメージリミテーションをする(被害を最小限に抑える)かがカギになる。今回はその考えを全く怠ったことになり、プレッシャーに押し切られる形で下した弱気とも言える判断は、以降私を苦しめることになる。
ーグリッドー ー決勝ー
Race1 欠場 欠場
Race2 欠場 欠場
ちなみに後から知った今ラウンドの結果は、Race1、Race2ともに Thomas が優勝。Dani は2位、3位だったらしい。Daniはこの3週間の間にあのバイクを直して挑んだのか。やはりこの2人が今後のシーズンのライバルになるようだ。