ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.20 Round6 カドウェルパーク

 

調子に乗る

8月13-14日、チャンピオンシップリーダーとして迎える今戦は、昨シーズン、出場したランドの中で唯一優勝の無かったカドウェルパークサーキット(サーキットの詳細は Vol.11 参照)。美しい国定公園内にある、世界に類を見ないイギリス特有のレイアウトを持つトラック。ただ走る分にはすこぶる楽しいコースは、ハイスピードレースではギリギリの状況と隣り合わせになる。

 

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昨年は同じくチャンピオンシップリーダーで迎え、優勝こそなかったものの、全 4Race を表彰台で乗り切った。今シーズンはこのラウンドが終われば残り 2戦。昨年圧勝したブランズ・インディーと勝手知ったるドニントン。得意のサーキットのみだ。今年もこのラウンドは手堅くいくべきことは分かっている。

 

土曜日の朝の予選。所々にウェットパッチが残るコンディションの中で 5番手。まあ良い。迎えたRace1。スタートで出遅れて 10位くらいに落ちる。だがいつもの通りに直ぐに挽回して 3周目までに 3位に上がる。前に Michael が見えた。好きになれない彼が前を走っていたら抜かずになど居られない。背後に迫る。追いついた 4周目のバックストレートからのブレーキング。本能的に彼を含めた前の 2台を一気に抜きに掛かった。

 

ただ、ここのブレーキングポイントは、6速全開の高速ストレートの後だというのに坂の上でブラインド。抜くと決めてかかるところではない。2台を抜いたは抜いた、が突っ込みすぎた。しかもブレーキングエリアは昇ったまま真っすぐではない。少し角度もついたのでフロントが暴れてオーバーラン。幸い転倒は逃れた。緑の芝の上をロディオのように走る。一刻も早くコースに戻らねば奴が逃げる。

 

直ぐに右ターンを試みた。が、それが運の尽き。露の残る芝の上でターンをするにはまだスピードが速すぎた。そのまま滑って転倒。思いのほか転がった。すぐにバイクに駆け寄ってレースに復帰しようとした。しかしストレートの後のスピードからのクラッシュ。しかもグラベルではなくて芝、つまり固い地面。思ったよりもバイクの損傷が大きかった。リタイヤ。私の居なくなったレースは Michael が優勝した。

 

ラウンドの初戦で転倒。一番犯してはいけないミスをしてしまった。調子に乗りすぎた。でもまだ明日 3レース有る。Max は引き上げてきたバイクを見て、このラウンドは終わったと思ったらしい。しかし私に明日の 3レースを諦める考えなど毛頭なく、何としても直そうと考えていた。そして日付が変わる頃までには何とかバイクを直した。眠気など全くなく、気持ちは高まっていた。明日は 3連勝しかない。やってやる。

 

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長い一日 

迎えた翌朝、日曜日の予選。祈るような気持ちで出走。が、願いも空しくバイクの調子がおかしい。アクセルが吹け上がらない。すぐにピットに戻り、予選は 1周のタイムで 30位となった。問題の個所は割れてしまった右ハンドルのアクセルワイヤーホルダ。同じ Brembo 製のスペアが無くてパーツ Box にあった純正ホルダを取り付けた。しかしアクセルワイヤが長くなってアクセルがうまく開かないのだ。空ぶかしでは大丈夫だったのに。

 

Race2 まで 2時間しかない。知り合いづてにあるメカニックが手伝ってくれた。現 BSB Superbike チャンピオン Shakey Byrne 選手のメカニックという超一流。ワイヤーの取りまわしを変えることでうまく吹け上がるようになった。やった、神様仏様 BSB メカニック様。そして迎えたこの日の最初のレース、Race2。グリッドはなんと、昨日の転倒直前の 3周目のラップタイムからポールポジション。いいじゃないか。

 

サイティングラップは問題ない。さずが超一流メカニック。これならいける。ポールのグリッドに着いてスタートを待つ。マーシャルが旗をかざしながらコースを離れていく。体を伏せてアクセルを煽る。その時、体中にビャッと電気が走った。ウォー、またアクセルが吹けない。とにかくスタートする。全くスピードが出ない。ダメだ。Race3 に向けて一刻も早く修理せねば。早々にリタイヤした。レースは Michael が優勝した。 

 

次のレース(Race3)までは 4, 5時間ある。純正アクセルホルダ + Brembo アクセルワイヤでは何をしてもダメだ。昨日の耐久レースのみ出場だった、同じバイクに乗る去年のチームメンバー Toni に、パーツを貸してくれるよう頼み込んだ。同じ Brembo ホルダのわけは無い。アクセルワイヤを借りて 純正ホルダ + 純正ワイヤ にするのだ。アクセルワイヤ交換は時間の掛かる作業だが、バイク屋を営む彼自身が手伝ってくれた。

 

Toni, Max, 私の 3人で必死でバイクを直していたその時、私のテントに Michael が現れた。「大丈夫か、パーツを貸そうか」と言ってきた。彼も同じ ZX10R に乗っている。どこからかトラブルの原因を聞きつけたようだ。そして今さらながらに、正面を切って戦いたいようなことを言っている。私の 2戦リタイヤに対して 2連勝をして余裕が出てきたのだろう。「借りられたから大丈夫。Tank you」とお礼を言った。

 

何とか直して臨んだ Race3。今朝の予選タイムによる 30番手スタート。バイクはそこそこ走り、7位でフィニッシュした。23台抜きは悪くないが、昨年は同様に最後尾スタートした 2回のレースでは、どちらも 3位表彰台に届いた。ただこのレースはスタート直後に大クラッシュが有って赤旗中断。再レースは 6周しかなかった。全てが逆風。レースは Michael が優勝した。彼はこれで 昨日から 3連勝。なんてこった。

 

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Michael はいつも私のいないレースで優勝をし、私が居るレースでは負けを認めるかのように背後でポイントを稼ぐ。気に入らない。彼とはドニントンの一件以来口をきいたことが無かったが、昨日初めてまともに話した。背が高くて、声も渋く、気骨ある男前の雰囲気だった。なんだよ、カッコいいじゃないか。気に入らない。アクセルは OK、もう大丈夫だ。私が戻った以上 4連勝はさせない。

 

I am crazy

迎えた最終の Race4。Race3 のベストタイム順で 7番手スタート。レッドシグナルが消えてスタート。私が集団に埋もれているうちに Michael ともう一人、今朝、修理を手伝ってくれた一流メカニックがヘルプするライダーが後続を離して逃げた。そのライダーはスポット参戦のようだったが、バイクはもろ Super Bike 仕様の Yamaha R1。一流メカニックも手伝っているくらいだから良いライダーなのだろう。

 

私が残り 3周で 3番手に上がった時には、その 2人は 3秒以上前に居た。2台はテール to ノーズの状態。Max からはレース後に、トラブル続きの後だったんだから 3位で上出来だったでしょう、と言われた。しかしその時の私は、1位と 3位では 9ポイント違う、このめちゃめちゃな展開を取り繕ってラウンドを終えるには優勝しかない、という気持ちだった。必ず追いつける自信も有った。

 

怒涛の追い上げをし、残り 2周で 2秒差、残り1周の時点で 1秒差まで詰めた。そして最終ラップの中盤にはもう 2人の背後についた。下りのブレーキングで並びかけるも抜き切れない。このコースの勝負所はほぼ前半の高速セクションに有る。後半は細いコース幅のタイトセクションでよほどのタイム差が無い限り抜ける場所はほとんどない。この時のブレーキングで1台抜いていたら展開は変わっていたかもしれない。

 

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マウンテンを駆け上がって森の中のタイトな S字を切り返す。最終コーナー手前の超低速右コーナー。S字の2つ目でアクセルを開けてインに無理やり割り込む。1台を抜いた。もう1台。残りは最終右コーナーのみ。飛び込むしかない。立ち上がりで早目にアクセルを開ける。タイトな角度だったためリアが大きく滑る。膝を出して支えようとしたが回るように転倒した。コーナー 1つを残してリタイヤ。幸い抜いたバイクは私を避けた。

 

レースは R1 が優勝した。壊れたバイクをレッカーから降ろしていると、同じクラスのライダーが「Hiro! You are so crazy!」と笑いながら話しかけてきた。遠くから No Limits のボス Mark が「Hiro! No more crash!」と叫んでいる。前の 2台とも最終ラップはこのレースの自己ベストで走っていたが、それでも私のその前の周のラップが Fastest Lap だった。2人を更に 1秒以上も詰めた最終ラップのタイムは一体いくつだったのだろう。

 

アドレナリンがオーバーフローして本当にクレイジーだった。車検場からバイクを引き上げるときもまたコケた。もはや、やけくそ的だった。寝不足、緊張と焦りの連続、やってもやっても坂を転げ落ちたもどかしさ、去年と同じ展開になった自分へのいら立ち、クラスに残留してチャンプ確実と見ていた周囲への恥ずかしさ、全てにいたたまれなかった。皆にクレイジーと言われるのは、むしろ救いの言葉に聞こえた。

 

が、テントに戻るとパーツを貸してくれた Toni が、自身の頭を指さしながら「Hiro! Think!」と言ってきた。Max には「最終ラップに入る時に 1秒以上も差が有って、誰も仕掛けるなんて思わないよ」と言われた。妻はいつも通り何も言わないが心配そうな顔をしていた。そうだよな。アドレナリンが引いて冷静になってくると、協力してくれた皆に申し訳ない気持ちになった。何で私はいつもこうなのだろう。。。

 

            ーグリッドー   ー決勝ー
Race1        5th           リタイヤ    (転倒により)
Race2      ポール       リタイヤ    (マシントラブルにより)
Race3       30th              7位
Race4        7th           リタイヤ    (転倒により)

 

今ラウンドではランク 3位につける Mark も、Race1で私と同じコーナーで転倒した。ブレーキミスした彼が、見ていた私に一直線に向かって来て、バリアに激突した。一瞬気を失ったがしばらくして起き上がった。レース後に彼に会った。彼にはスペアバイクが有るが気を失った今回はドクターストップがかる。「今日は終わり。あそこはブレーキングポイントが見えないし角度がある。ブレーキングが芝の上になったよ」と笑っていた。

 

結局、私はチャンピオンへの足固めをすべきこのラウンドを、 7位 1回、リタイヤ 3回という散々すぎる結果で終えた。そして優勝 3回、2位 1回だった Michael にポイントリーダーの座を完全に明け渡した。気持ちで走る私と Mark が自滅し、着実な Michael のチャンピオン獲得が近づくという対照的な結果となった。それからの日々は辛かった。去年の二の舞。何で私はこう愚かなのか。現実を整理できず、ただ時間が戻って欲しかった。

 

 

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