ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.11 第6戦 カドウェルパーク

Cadwell Park Circuit

カドウェルパークサーキットは、ロンドンから北東方面に車で4時間、国定公園内にある美しいサーキット。全長 3.477 kmのコースは、見通しの良い丘を駆け抜ける高速セクションと、林間を巡るツイスティーセクションから成る。バイクが宙を舞うマウンテンは有名。2輪を楽しく走らせる要素の詰まったレイアウトは多くのUKライダーに好まれている。一方でコース幅はすこぶる狭く、ハイスピードレースにおいては独特な世界になる。昔、BSB Superbike に参戦していた加賀山選手がここを初めて訪れた時、目の前のコースをピットロードと見間違えたという逸話がある。

 

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2015 NLR Championship R6 Cadwell Park は 8月8-9日開催。第2戦不出場による出遅れや、その後の不運から、やっと立て直してポイントリーダーになった。今回のラウンドは、去年の 8月のACUライセンス取得講習会で走ったことのあるカドウェルパーク。その時はあまりに独特なレイアウトの山間コースに驚いた。慣れを要するイギリス古典的レイアウトには、オールトンパークで得た苦手意識も残る。ただ私はもともとは峠上がり。こういうコースにはアドバンテージがあるはず。今は自他ともに認める絶好調状態。きっと何とかなるはずだ。

 

オールドタイプ

ラウンド前に一度だけ練習に行った。実際に走ってみると、去年のツーリング用 Yamaha XJR6 と完全レーサーマシンの ZX10R では全く違った。1000ccマシンのスピードにはコース幅が狭過ぎる。バックストレートは大胆に下って昇っているからブレーキングポイントが見えない。そもそもストレートでは無いので、ラインを外したら、いや、アクセルを開けるポイントを間違えたら、それで飛び出してしまう。ストレート疾走中はあたかも平均台を渡っているかのよう ↓↓↓

 

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そして極めつけはマウンテン。TVで BSB の Josh Brookes 選手が1000ccマシンでジャンプしてるのを見たことが有った。気持ち良さそうだなーと思っていたが、とんでもない。いくら急な上り坂だって200馬力近いバイクではアクセルを合わせる程度。タイミングを間違って煽りでもしたら即バック転だ(実際にバック転をしているマシンを何台も見た)。ちなみに Haslam 親子曰く、ジャンプはしない方がタイムは速いらしい。ここのコースレコードを持つレオン自身、モトクロス上がりだけにジャンプは得意であろうが、力のベクトルを上では無くて前に向けて這うように走る。

 

それでも私も最後の方は何度かマウンテンをうまく走れた。ジャンプなんて全く無理だが、坂を上った辺りで軽くウィーリー状態になるもののアクセルを戻さずにそのまま走って、じきにフロントが自然に落ちる感じ。ウィーリーにビビッてアクセルを戻せば止まるほど失速してしまうし、フロントが上がっているのにアクセルを開け過ぎればバック転だ。その絶妙なアクセルワークは簡単ではない。でもこんなテクニックはロードレースのものなのだろうか?当時 BSB Superbike チャンプの清成選手が勝利インタビューでマウンテンジャンプについて聞かれて、「全くジャンプなんて出来ません」と言っていた。そう、関係ないのである。

 

とにかくこのサーキットはイギリスのヒストリカルサーキットそのもの。バイクがはるかに遅かった時代、自然の起伏のままにコースを巡らせれば天然の競技場になったのだろう。バイクの性能が大きく進歩した現代においては決して新設されることの無いコースだと思う。ただ、そんな少し無理の有るサーキットでも、大幅なコースレイアウトの変更などせず、BSB を開催してスーパーバイクをジャンプさせ続けるのがこの国。毎年多くの不幸が起こってもマン島TTが続けられている国である。

それにしても Josh Brookes 選手のジャンプはすごい ↓↓↓ 

 

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手堅い結果

迎えたレースウィークエンド。今回は他にも書きたいことがあるので結果を先に記しておく。あまりレース展開の記憶がないという理由も有る。私は、金曜の公式練習と土、日の 2予選と4レース を通して、なんとか攻められるようにはなった。ただ、これまでのようなアドバンテージを得るまでには至らず、結局 4つのレースを、2位 1回、3位 3回という結果で終えた。今ラウンドの主役は、最近調子の上がらなかった Dani 。そしてサーキットから20分に住み、ここをホームコースと公言するランク 2位の Paul だった。

 

特に Dani は絶好調で、これまでクラスをけん引してきた Thomas や私も成し得ていない全 4レースで優勝を果たした。 聞くところによれば彼はもともとモトクロスのチャンピオンらしい。マウンテンジャンプはともあれ、Daniと言い、Leonと言い、このコースはやはりそういう技量が求められるのであろうか。Dani は現在ランク 3位につけている。今回は良いタイムで走っていたし、いよいよBMW に乗り慣れてきたというところか。Paul も同じく、走り込んでいるホームコースで元気が良かった。

 

それでも私は全てのレースで勝者の Dani を視界から見失わない距離でゴールした。レース距離を終えてのその差は、普通に考えれば同等のスピードだし、全く悪くはない。周りも、チャンピオンシップリーダーの Hiro は、慣れを要するサーキットで手堅く背後についてポイントをゲットしたと見たようだ。しかも Race3、Race4 ではランク 2位の Paul より前でゴールしている。ポイント差を広げたのだから、チャンピオンシップの上でも全く悪くない結果だ。

 

ただ、初めてこの 2人にガチンコで負けた。これまで最速を自負し、抜き切れない感覚を味わったことの無かった私は全く肯定的には捉えられなかった。4日間を通してのそれぞれの自己ベストラップは 、2人が 1分35秒台に入れたのに対して、私は 1分36秒354だった。そして何より、Race1 では、ゴール時点での優勝者 Dani と差が 3秒ほどだったのに対して、最終 Race4 での差は 倍に広がっていたこと。これでは慣れに時間を要したとは言えない。何とも言えない悔しさと、いくばくかの敗北感を感じた。

 

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あの JAPANESE 野郎は迷惑

更に今ラウンドでは嫌なことも有った。今回はポジション的に何台かのバイクと競い合うことが多かったのだが、今回、Dani、Paul、私、に加えてトップ争いをした、Andrew (Stockdale) という決してガラの良い感じではないライダーが、私の抜き方が気に入らなかったらしく、レース後に、Hiro が dangerous な走りをした、とオフィシャルにクレームをつけた。何故か Paul や何人かのライダーもそれに同調して「あの Japanese 野郎は迷惑だ」みたいな要求になり、あわよくペナルティーを科せられそうになった。

 

確かに一度 Andrew を抜こうとした際に、ブレーキを遅らせ過ぎて通り過ぎてしまい、バイクが交差するような感じにはなったが、接触したわけでも、誰かを転倒させたわけでもない。通り過ぎたのだって、そのままスピードを殺したらちょうど交差して接触してしまう感じだったので敢えて行き過ごしたのだ。Moto GP、いや、クラブレースでだってよく見る光景で、全くの言いがかりだ。Andrew は初めてトップ争いに絡んで、アドレナリンがオーバーフロウしたのだろう。

 

ただ、たった一人でいる外国人の立場は弱く、数人(恐らくAndrewのヘルパー達)に Hey! dangerous Hiro! とからかわれたりしてパドックに居辛かった。また、他の何人かのライダーが同調したことには、きっとその場の Andrew の勢いに押された感じだったとは思うものの、私は本当に dangerous なのだろうか、それ以前に私はここには招かれざるライダーなのだろうか、と考えてしまって楽しみ切れなかった。学校でも会社でもどこでもそうだが、疎外されている方はそれなりにきつい。

 

ほのぼのパドック 

 

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一方で、このトラックの晴れた日のパドックの雰囲気は良い。アスファルトの敷かれた広いパドックが無く、レースウィーク中は皆、芝生エリアにテントで簡易ピットを作って過ごす。前戦、Host-it の Andrew から、次のカドウェルにはバイクを載せられる長方形の厚めのウッドボードを持ってくるように言われた意味が分かった。それでも全くもって不安定なピットフロアだが。

 

またファミリーにも楽しい。都市部以外に住むイギリス人は、車でけん引するキャンピングカーを所有していることが多い。毎回のレースラウンドでもそれを引っ張ってきて週末を過ごしている。テーブルを出してバーベキューなどもするため、この芝生のフィールドの中だと、さながらキャンプサイトに居るかのようになる。私の家族も、耐久チームのメンバーの家族達と一緒に楽しい時間を過ごした。

 

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ラウンド総括

                ーグリッドー   ー決勝ー

Race1              3rd                3位
Race2           4th                3位
Race3           3rd                2位
Race4           4th                3位

 

こうしてカドウェルパークラウンドは終わった。全レース表彰台の成績は悪くなく、ポイント差を少し広げてリーダーの座を守った。天気の良かった週末を通して、家族ともキャンプのような楽しい時間を過ごせた。ただ一方で、抜き切れなかった感覚が残り、ベストラップタイム対する敗北感が有った。また、周りから疎まれている雰囲気などによってすっきりしないラウンドになった。

 

このモヤモヤを吹き飛ばすには、前戦のような絶対的な勝利しかないだろう。私は手堅く表彰台をゲットしてもうれしくないのだ。難癖の件だって、そもそもブッチギってしまえばいい。奴らとバトルにならなければゴチャゴチャ言われることも無いわけだ。私のこの反応は彼らの挑発に乗ってしまっている感もあるが、、残りはわずか 2戦。自他ともに認める最速チャンプになれば、それですべての決着がつく。

 

 

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