ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.17 Round3 ドニントンパーク

 

仕切り直し

5月14-15日、仕切り直しの第3戦の舞台は、勝手知ったるドニントンパーク(サーキット詳細は Vol.8 参照)。5月に入ってだいぶ天候も安定してきた。今シーズンはこれまで、第1戦は準備不足による妥協、第2戦は大雨と不運によってまともに戦ってすらいない。このラウンドでは、とにかく自分の力を出し切って戦いたい。切にそう願った。

 

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前戦で大破してしまったバイクは、MSS によれば、やはりフレーム修正は可能に見えるとのことだった。ただその判定は、修正から戻ってきたものを一度組み込んで、走行テストをして行うことになる。それで OK ならば次のレースに間に合うが、もし 再修正が必要だったり、修正不可能となればラウンドを欠場しなくてはならなくなる。

 

交換することにした。大きな出費になるので迷ったが、フレームは要のパーツ。今後のシーズンにおいて余計な不安を抱え込まないためにも、MSS の助言に従った。レース活動をする上ではある程度の支出は覚悟していなければならないが、それにしてもフレーム交換は痛い。新しい黒の FRP カウルはペイントせず、ゼッケンだけ付けた。

 

どうしたんだよ Hiro 

5月13日(金)。公式練習を満足な感じで終えた。迎えた初日14日、土曜の朝の予選。出走 37台中の 2番手を獲得。ポールはランクトップの Michael Austin(マイケル オースティン)。僅か 0.05秒差でポールを逃がしたのは残念だったが、この時のタイム 1:42.762 は自己ベストより 5秒も遅い。短時間の予選ではこのようなこともままある。自分的にはまだ余裕が有った。

 

そして迎えた Race1。自信の通りに序盤からトップに立って優勝した。ようやく今シーズン初勝利。ベストタイムは 1:39.071 でこのレースの Fastest Lap。朝の予選から 3秒近く縮めた。去年のラウンドでの自己ベストよりはまだ 2秒ほど遅いものの、その時の路面コンディションなどで変わってしまう範囲。とりあえず満足。やっとだ。3ラウンド目にしてやっと勝てた。

 

パドックを歩いていると、旧知のライダー達やタイヤサービスの面々から「今シーズン初優勝だよね?」と声を掛けられた。純粋におめでとうと言うより、どうしたんだよ Hiro、というニュアンスが含まれていた。調子が悪かったというわけでは無く、ただいろいろ噛み合わなかっただけなのだが、私自身、勝ててうれしいというより、ホッとした気持ちが強かった。

 

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気に入らない奴

ただこのレースでは嫌なことも有った。レース終了直後のバイクプール。オフィシャルのバイクチェックの間、通常そこではバトルしたライダー同士がねぎらい合う光景が見られる。私のところにもレース序盤にバトルをしたと思われるライダーが手を前に出しながら駆け寄って来た。握手でも求めてくるのかと思って手を差し出しかけた、が様子が違う。

 

彼は私に指を突き付けながらヘルメットの中で何か怒鳴っている。良く聞こえなかったが、レース中の何かが気に入らなかったらしい。私には彼に限らず誰かとぶつかった記憶はないし、どの場面を言っているのかサッパリわからなかったが、彼は一方的に怒鳴り散らし、「わかったな。二度とやったら許さないぞ」みたいなことを言って去っていった。

 

握手に応じようと笑顔だった私は面を喰らい、その笑みを引きつらせながら、まあまあ、わかったわかった、という態度を取るしかなかった。周囲も、和やかな場をぶち壊すような怒声に驚いていた。悪いことをして先生に叱られているような恰好になった私はバツが悪かったし、いきなり指を突き付けて怒鳴りつけられたのには気分が悪かった。

 

後々知ったが、その男が現時点のシリーズランキングトップの Michael Austin だった。チャンピオンを狙っている彼には、そもそも去年最速だった私がこのクラスに残留したこと自体が気に入っていなかったのだろう。それとも彼が、私を成敗せんと他のクラブからやってきたという奴か? どうでもいい。気に入らない奴。

 

バツの悪いミス 

翌、日曜日の朝の予選ではポールポジションを獲得した。リズムに乗って来た。続くRace2 も前日の Race1 のベストラップからポールスタート。 #29 Mark に先行を許したが直ぐに抜き返した。その後はずっとトップを維持した。しかし彼も離れなかった。そして迎えた最終ラップのメルボルンヘアピンのブレーキング。ゴールまでコーナーはあと2つ。私はブロックラインを取った。Mark はアウトから大回りするラインを取った。

 

ほぼ横一線でヘアピンに飛び込んだ。私のラインの方がタイトなので少しはらむラインを取りたかった。だが彼が被せてくるラインに重なって行き場を失った。ならばとインにねじ込もうとした瞬間、握りゴケのような感じでフロントからスリップダウン。そして、外側のラインに居た Mark を巻き込んだ。コーナー2つを残してトップ 2台が転倒した。場内放送のアナウンサーの絶叫が聞こえた。

 

レース後、Mark に謝りに行った。彼は憮然としていたが、私を責めることはしてこなかった。その場にいた彼としては、私に悪気が無かったことは理解でき、あのクロスラインではどうしようもないレーシングインシデントだったという感覚もあったのだろう。口から出そうな言葉をグッと呑み込んで、発する言葉を探せずにいるのが分かった。

 

ただ、彼の転倒は、ラインが塞がれたとはいえ、先に転んだ私が引っ掛けて起こったもの。昨日の Michael との一件では、私は何も危険な走りはしていないと気持ちを強く持って消化していただけに、他のライダーを巻き込んだこのミスには気が滅入った。レースの方は、 少し離れたところで 3位を淡々と走っていた Michael がそのまま漁夫の利を得た。

 

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2つのケジメ

午後の Race3 は、朝の予選で獲得したポールからスタートした。しかしレースを通してずっと Mark の後ろを走って、彼から僅かに遅れて 3位でゴールした。ペース的には余裕が有ったので前に出ようかとも考えたが、Mark の前には Michael も見える。これでまた 2人と絡んで何か有ったら、例えそれがレースインシデントだとしても面倒である。ここはグッとこらえた。

 

思えば、レース人生で初めて、抜けるのに抜かずにポジションキープをした。私が最後まで仕掛けなかったことには、Michael はさて置き、レースを通して私が直ぐ後ろにいたことを知っていた Mark は、午前中の借りを返されたと感じたことと思う。数ポイントを失ったのは残念だが、ケジメをつけた格好になったことは、私の気持ちにおいてはそれ以上に有効だった。

 

迎えた最終レース、Race4。Race3 で一応のケリをつけた形になったからもう遠慮はいらない。昨日と今日、いや今シーズンのこれまでの展開に対して、腹立たしい気持ちも沸いていた。要するに君らと絡まなければいいのだろ?という気持ちで臨んだ。彼らもこのレースが、ここまでのシーズンとは言わないまでも、少なくとも Race1 ~ 3 の色々に対する決着になることは感じていたようだ。事実、彼らはこのレースで自己ベストを更新していた。

 

ただ私はそれを上回るペースで序盤からとばした。そして彼らの追従を許すことなく独走し、2位の Mark に 4秒、3位の Michael には 8秒半の差をつけて優勝した。そういうことなんだよ君たち。私が最速であることを再確認させられた形は、今ラウンドのゴタゴタに対して別の意味のケジメを付けられた気がした。これまで精神的にタフな状況が続いていた中で、少し気分が晴れた。

 

                 ーグリッドー   ー決勝ー
Race1            2nd            優勝
Race2          ポール         リタイヤ (Markを巻き込んで転倒)
Race3          ポール             3位
Race4            4th             優勝

 

チャンピオンシップスタンディングの方は、今回も、私と Mark が転倒した Race2 で優勝するなど手堅い走りをした Michael が 1位を守った。勇ましい割にいつも手堅い走りをしやがる。あの、指を突きつけられて、皆の前で怒鳴り散らされた光景がよみがえる。リスペクトを欠くこのガキだけは気に入らん。なんとかせねば。

 

 

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