ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.5 初走行、初転倒

初走行 

2015年2月の終わり、慣れているドニントンパークを選んでバイクの初走行に行った。1セッション目、とにかく ZX10R の速さにビビった。同じ最新1000ccの Firebladeで走り慣れていたが、スタンダードバイクとレースバイクではこれほど違うのか。バックストレート途中の、そこに立ったって決してわからない程度の起伏でフロントが浮いてしまう。アクセル100%全開なんて怖くてできない。

とにかく慣れるしかないと思った2セッション目。十分に暖気をしてピットレーンで並でいると、水温がぐんぐん上がってラジエターのリザーバータンクからブシューッ!と水が激しく吹き出してしまった。水蒸気が立ち込めてマーシャルが走ってくる。なんで?とにかく列を外れてエンジンを止めると程なく噴射は治まった。バイクがだいぶ濡れてしまったがラジエターの水だから問題ないはず。少しだけ乾くのを待ってそのまま出走した。

 

ところがーっ!! 直後の第3コーナー、コース最初の左コーナーのクラナーカーブ。切り返した瞬間にそのままハイサイドのような動きでシュワッと飛んだ。 マジかよ、 ニューバイクでいきなりやってしまった、ゆっくり走ってたのになんでよーっ? 転がりながらいろいろ考えた。バイクに駆け寄り、リアタイヤ周りがまだ濡れているのを見てハッと気づいた。そうだった、冬の間は外のガレージ保管になると言ったら、Alecが凍結防止クーラントをしこたま入れて渡してくれていたんだっけ。スベるはずだ…。

 

幸い強烈なダメージは無かったが、レバー類が折れてマフラーが曲がってしまった。今日はもう走れない。なんてこった。。。バリバリのプロレースを無転倒で切り抜けた美しいバイクを、こんなにあっけなく傷つけてしまうなんて。ショック。。そもそも何で水が噴き出したのよ。。。

レッカーでピットに戻ると、たまたま同じピットガレージに居合わせたライダー達がバンへの積み込みを手伝ってくれた。そして私が興奮しながら事情を話すと「最近のレースバイクは冷却ファンも外してるんだよ。だから温度が届いたら小まめにエンジン切らないといけないよ」と、水温計とキルスイッチを順番に指さして笑いながら教えてくれた。そうだったのか。15年も経てば(まともなレースバイクでの最後のレースは '99のモテ耐)何もかも変わるよな。。奴ら笑ってやがる。この素人感。。バツが悪い。。。

 

彼の名は Daniel Shaw。去年の NLR Championship New Comer 1000スポット参戦の好成績を経て今年はフル参戦するとのこと。えっ、私が参戦するクラスだ。一緒にいた彼の友人は Daniはチャンピオンになるよと言っていた。私もその選手権に参戦することを告げた。夕方、今日はありがとう、とお礼を言った。彼は車の窓を開けて、「最近のバイクは速いから無理せずに頑張ってねー。また第一戦で会おう。」と手を振って走り去っていった。

彼の友達は Dani は速いって言ってたな。ライバルになるのだな。彼のレースゼッケンは 332。覚えておこう。そういえば彼のマシン、Suzuki GSX 1000RR のテールカウル部分にはユニオンジャックが誇らしげにカラーリングされていた。私も勝手に日本人ライダー代表の気分になり、日の丸をどこかに付けようと思った。こうして、まともに走行をしないまま初練習は終わった。

 

No Limits Racing Championship 

 

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2015年3月、いよいよシーズンが初まる。NLR Championship Series は全8ラウンドで、違うサーキットを転戦しながら争う。使用するサーキットやポイントスコアの方法はプロ選手権(BSB)と同様というもの。本格的でうれしい。ただ驚いたのは、各ラウンド の週末で4レースすること。つまりシーズンを通して32レースもするのだ。これまでの私の常識では、土曜予選、日曜決勝のスケジュールが当たり前だっただけに驚いた。分単位のスケジュールを組んでいる理由は、ひとえにレースする回数と、している時間を増やすためだそう。純粋にレースをすることに主眼を置いたシステム。常に目的にストレートな欧米人。ぜんぜん日本の地方選とはちがうなーと思う。

 

また、NLR はイギリスの有名 Racing Club の中で唯一耐久レースシリーズを行ってる。そのため週末のスケジュールは、一般的な Club Raceのスケジュールが土曜2レース、日曜2レースなのに対して、まず土曜の朝に各スプリントクラスの Race1のグリッドを決めるための予選を行い、続いて各スプリントクラスの Race1、午後はずっと耐久(通常3時間)。そして日曜日は朝一に各スプリントクラスの Race3 のグリッドを決める予選、その後各クラスの Race2(グリッドは前日の Race1 のベストラップ)、Race3(グリットは朝の予選結果)、Race4(グリッドはRace3のベストラップ)というもの。従って日曜日は実に4回も出走をすることになるのだ。それでなくても強烈な緊張と集中力を要するこのスポーツ。このタイトスケジュールでどうやってコントロールするのだろう。そもそも気楽にやってるのか?それとも切り替えに慣れるのか?

 

初走行から第一戦まで3週間しかなかった。転倒後の修理で全く練習ができなかったが、何とかレースには間に合いそうだ。第一戦の舞台は10月に Paulの持ってきた R6 で練習をした Snetterton 300。ストレートが長いので ZX10R だと恐ろしいことになりそうだが、コースは一応覚えている。インストラクターから褒められた良い印象も残っている。レベルも全く分からないけれど、世界の一流ライダー達が「Hiroならトップクラスを走れる」って言ってくれたのだからきっとやれるはず。ただのお世辞だった可能性大の言葉だけを支えに、バイクの整備を続けた。

 

f:id:RMARacing:20200417045638j:plainちなみに私のゼッケンは21。No Limits のオフィスを訪れた際に希望のゼッケン番号を聞かれた。いきなりで迷ったが、 カワサキのスーパーバイクと言えば AMA #21 Eddie Lawson だったのでとっさにそう言った。今思えば、それこそ 我が GPz を駆ったレイニー#60 も有りだったが、やはりイメージはローソン。それに私はローソンのライディングフォームが史上一番美しいと思っている。