ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.37 2020 BSB R1 ドニントンパーク ナショナル(Ducati Cup R1)

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コロナ禍中の開幕

いよいよシーズンが始まる。開幕前の準備では、順調な仕上がりから最後の最後で急降下した。仕上げのつもりで参戦して悲惨な展開となった先週末のクラブレースでは、私がそのクラブレースにフル参戦していた時代に打ち負かしたライダーも多く参戦していたが、凱旋どころか、あの頃の Hiroではない、という声も受けた。ただこの 1週間、気持ちの切り替えに努め、思った以上に吹っ切れたように思う。私はそもそも『万事はうまく行かないもの』と思っている。いつものことじゃないか。時間が掛かることも有るけれど、ダウンの次は必ずアップ。そういう意味では第1戦の舞台が良く知るドニントンパークなのはラッキーではないか。ここで上向き方向に転換させればよい。

 

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今回の舞台は、私の良く知るドニントンでもメルボルンヘアピン部分をスキップするナショナルコース。バックストレートからシケインを介してホームストレートに入る。走ったことが無いのでイマイチ心配だが、新しい箇所はバックストレートから右、左に切り返すシケインと、そのままホームストレートに入るための立ち上がりの部分のみ。これから迎える第3戦のシルバーストーンなど、得意だった西半分のインターナショナルコースは一切重ならない、ロクに攻めたことすら無い東半分のナショナルコースで行われる。それに比べれば全く良い。

 

もちろんそこは BSB レベル。いくら一部分とは言え、このレイアウトで全く走ったことが無いのもどうかと思い、実は Vol.35で記した 7月14日のドニントンパークでのトラックデイは、ナショナルレイアウトだったから予約した。ところが当日サーキットに行くといきなり GPコースに変更されていた。コロナによる影響と考えられるが、この程度のことは流すのがイギリス流。ナショナルレイアウトだから予約したのに! などという細い苦情は野暮。他の一般のライダー達は何事もなかったかのようにGPフルコースを楽しんでいた。まあ彼らにナショナルでなければならない理由など無いのだけれど。

 

8月7日(金)、いよいよ BSB開幕。早朝にサーキット入りした。ここは来慣れたサーキット。昨年の経験から観客のごった返す BSBパドックの雰囲気にも慣れた、と言いたいところだが、そう、今回は観客が居ないのだ。毎戦、延5万人の大観衆が訪れるのが BSB だf:id:RMARacing:20210210074256j:plainが、しばらくはパドックに入れるのは関係者のみ。ゲートは厳しく管理され、乗り入れ可能な車も各チーム1,2台まで。まるでクラブレースのような雰囲気だ。パドック内ではマスクの着用が義務付けられ、定期的に係員がスクーターで監視に回っている。

 

というのも、もともとイギリスは 8月から全てのスポーツイベントの開催が許可されることになっていた。しかし、コロナ感染第2波が起こり出している状況を警戒して、数週間前になって政府が開放のアクセルを緩める方針に変更した。BSB やサッカープレミアリーグなどのエリートスポーツと呼ばれるプロ系のスポーツイベントの開催は維持されたものの当面は無観客となった。そうなると BSB にとっては TV放映権だけが収入源。係の監視がやたらと厳しいのも、多くのスポンサーへの手前、そして早期の観客招聘実現のため、TV映像に安全に開催している様子を映さなければならないのだ。

 

セットアップ  

7日金曜は、昼過ぎから25分の Free Practice と17時半から25分の予選。迎えた今年初の BSB 出走となる Free Practice、バイクは前コラムで説明した B。エンジンリフレッシュはしていない。テストで 2速立ち上がりのもたつきを感じていたので、コーナー出口での回転数を下げないよう、持っていたギア選択肢、14-43、14-44 のうちショートの方にした。果たして、結果は 30台中の 15位、タイムは 1:15.293。このタイムが良いのか悪いのか分からないが Jason は It's goodという。想像通り、コースについては何とかなりそうだったが、懸念していた立ち上がりの不調は 4速でも生じた。Jason は、多くのトップライダーのエンジンを見ているチューナー Mr. Jezz が後で来てくれると言う。

 

17時半からの予選。Mr. Jezz はまだ来ない。かくなる上は更にギアをショートにして回転数を上げるしかない。ストレートで 6速吹け切りが心配だが、過去のチームライダーが 14-45 のギアで走っていたデータが残っていた。選択肢として有り得るのならそれで行こう。また今回からスペイン人のサスペションスペシャリスト、Mr. Pav がヘルプしてくれることになった。プレシーズンにセッティングや Data Log の必要性を訴えた私に応えてくれた形だ。自信を持ってコーナーに侵入できない旨を伝えると、彼はドライヤーでフロントサスの動きを良くしてから、セッティング系を全てソフトに振った。

 

結果は 31台中16位。タイムは 1:14'775で Free Practice から 0.518秒縮まった。フロントサスのセッティング調整で明らかに走りやすくなり、午前中に感じていたコーナー侵入時の変なためらいも減った。それでもフロントボトムにまだ余りが有る反面、リアはフルボトムしているとのことで、Pavは明日の決勝に向けて Fフォークスプリングを柔らかい物( 10 → 9.75) に変更した(プリロードは 基本の7.0)。懸念のエンジンは、ギアをショート化して回転数を上げた分、気になっていたコーナーもなんとか走れ、幸いストレートでも吹け切らなかった。バイクはこれでいい。明日のレースへ希望が湧いた。

 

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BSB R1 Donington Park National: Qualifying on 7/Aug/2020

 

夜は昨年の最終戦と同じ、近くのチェーンホテルに泊まった。今回も家族は来ていたが、レースを見れないし(全てのスタンドも観戦エリアへの道もクローズ)、パドックで子供がワイワイ遊ぶ雰囲気でもない。そこで昼間は私はレース、家族はファームなどに観光に出かけ、夜ホテルで落ち合う形にした。外では子供達にもマスクをつけさせ、ホテル内のあちこちにあるサニタイザー(消毒液)で手を清めた。部屋に入れば安心。バーガーキングのテイクアウェイで部屋食ディナーになった。それはそれで楽しい。

 

翌 8月8日(土)、今日は 15時過ぎからの Race1 のみ。いよいよ 2020シーズンの初レース。レッドシグナルが消えてスタート。3台ほどに抜かれる。3台なら私にはまずまずだが、今回はそれらのライダーを抜き返すためのレースになった。なぜならバイクのストレートスピードがやたら遅かったのだ。前のライダーより明らかに早くアクセルを開けてもブレーキングで抜けない程度まで離れる。ショートギアに振った弊害だ。1台抜くのに数周を要し、数台抜いて視界が開けた時にはレースも終盤、前の集団は見えなかった。出走31台、完走24台中の13位。課題は残ったが、初戦でポイント獲得はうれしい。

 

ただタイムは予選とほぼ同じ 1:14'619だった。ギアもサスも自分なりにまとめ上げたが、相対的な速さが足りなかった。これは決勝でテール to ノーズをして初めてわかること。ストレートなのでおそらくギアがショート過ぎるからだと思うが、直線後半での伸びはコーナー脱出スピードにも左右される。懸念のエンジンのもたつきが原因かもしれない。昨日から待っている Mr. Jezz はまだ来ない。Jason がテクニカルコントロールで DYNO に掛けてみようという。私の言っているアクセル急オープン時のもたつきは、ゆっくり開けるDYNO グラフには表れない。解決への診断にはならなかったが、パワーデリバリー自体に問題はなく、実測で一般的な149馬力有ると分かったのは良かった。

 

夕方、やっと Mr. Jezz が来てくれた。取り巻きを連れた学者風の高年男性だった。彼は「データログ備えて無いの?それでは何も分からない。」と言って帰ってしまった。中途半端なライダーのインプレッションを相手に解析する気など無いのだろう。かくなる上でストレートスピードを他と同等にするにはギアのロング化しかない。ただロングにすればもたつきが一層悪くなる。そこで一気に 2丁ロング(14-43)に振り、問題のオールドヘアピンとマクレーンコーナーは一つ下のギア(3速)で走ることを考えた。今のギアで合っていたシケインや 1コーナーがダルくなるかもしれないし、マクレーンコーナー前で切り返し&ブレーキングしながら 2速落としになるのはきついが、それしかない。

 

悔しいけど上出来

翌 8月9日(日)、今日のスケジュールは 12時前からの Race2 のみ。またまたWarm Upセッション無しでいきなりレースだ。Race1に向けた Fスプリング軟化の方向性は正しかったので、今回はスタンダードにしていたプリロードの調整として、フロントを3回転緩めてリアを1回転締めた。迎えた決勝、Race1 のベストラップによる 16番手からのスタート。5、6台に抜かれた。Race1でスタートに良い感覚を得たのにまたいつも通りに失敗した。その上、ギアを 2つ変えてシフトパターンが変わったことで慣れを要し、1, 2周のうちに更に数台に抜かれた。さずがは BSB ライダー達。少しでもペースが落ちれば挿される。3周で25番手くらいまで落ちた。Jasonや Pavは、14-43 は Doesn't work だと半ば諦めたらしい。

 

しかし BSB参戦以来の私は、そもそも優勝を前提に出走していないからか、クラブレース時代とは違って落ち着いていて、抜かれてもカッと来ない。冷静ながらもアドレナリンを高く保って攻めるというのは簡単ではないが、今回はそれがうまく作用した。5周目くらいになるとシフトパターンにも慣れてきて、スタートと最初の数周で抜かれたライダー達に追いつき出し、1台、また1台と抜いていく。昨日と違ってストレートスピードが周りと同等なのでブレーキングで前に出られる。パスがし易くてリズムに乗れた。やはりこのギアとシフトパターンが正解の様だ。

 

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BSB R1 Donington Park National: Race2 on 9/Aug/2020


レースも後半。だいぶ抜いたから予選ポジションくらいには戻っただろうか。少し先に #50 Matt Steven が見えた。彼はクラスの後方集団のトップ辺りに位置するライダー。いつもスタートは良いが後半に垂れてくる。私は自分のクラス内の位置づけは彼より前だと思っているので、今回は彼まで抜いたら満足としよう。少しずつ差を縮める。ドニントン最大のパッシングポイントはホームストレート後の1コーナー。最終ラップに間に合いそうだ。最終コーナーで背後についた。立ち上がりでアクセルを極力早く開ける。彼のバイクは新型だがホームストレートで離されない。いける。1コーナーのブレーキングで狙いすましてかわした。ヨシッ、ペースは私の方が速い。あと一周抑えればよい。

 

その時、前方に周回遅れのバイクが見えた。オールドヘアピンで後ろの Matt との間に挟めそうなタイミング。イケーッ、やった、狙い通りに挟めた、と思ったが、インから無理に挿したことでターンに角度がついてギアをミスしていた。加速感が無い。ヤバい! 慌てて正規のシフトへ下げる、が、右からオレンジのバイクが並びかけてきた。彼はバックマーカーのインを挿すのは無理と分かって、アウトから侵入して立ち上がりで抜いたのだろう。彼のバイクはスピードに乗っていて、続く高速左コーナーまでにかわされてしまった。微妙に空いたギャップを必死に詰める。バックストレートまでに追いついてスリップについた。残りはストレートから続く最終シケインのみ。抜けるはず。

 

セオリー通りに Matt はバイクを右に振ってインをブロックする。その場合後ろのバイクは、アウトから侵入して良いラインで立ち上がってストレートで交わすことを考える。ゴールラインまでに間に合うか。極力良いラインを取ろうとアウトにバイクを振ったその瞬間、何っ!? 白いバイク、19才の #36 Ewan POTTER がインに飛び込んできた。何周か前に抜いた彼がついてきていた。さすがにヤングスターは生きが良い。ブレーキングを遅らせて Ewan を何とか押さえたが、もはや良いラインでは立ち上がれず、Matt には 0.3秒届かずにチェッカー。バイクプールで Matt が「ギアミスしただろっ!」と笑いながら手を差し伸べてきた。クソーッ!

 

結果は、出走31台、完走29台中の16位。 Matt に抜かれてポイントを取り損ねた形になった。ただ Jason 達は「Good Race!」と上機嫌だった。序盤のポジション下降の際はギアが合わなかったと落胆したものの、途中から前を詰め出して最後まで順位を上げ続け、最終的なベストラップは昨日から1秒半近くも更新した1:13'307 だったからだ。前でゴールした Matt のそれは 1:14'166で、ベストラップだけなら順位が 3つくらい上がって、なんと、去年の最終戦前に参戦した NLR ドニントンラウンドで全く歯が立たなかった Sam Middlemas のタイムも上回っていた。レース結果はイマイチ悔しいが、上出来だった。

 

こうしてシーズン初戦は終わった。開幕直前で落ちた雰囲気を前向きなレールに戻せたこと、何よりバイクのセットを詰めながら結果を上げられたことは大きかった。次は 2週間後のスネタートン300。今シーズンの中で唯一レース経験のあるサーキットながら、知っての通り鬼門。実は悲惨だったNRLの後、本番までにもう一度走っておきたくて明後日火曜日に練習走行を組んでいた。Jason はバイクの走行距離を増やすことに否定的。キャンセルも覚悟していたが、火曜日は Pavも他のチームの帯同でスネタートンに来ると知って了承してくれた。今回のラウンドの展開は、彼にセッティングの重要性を再認識してもらうことにも繋がった。

  

             ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー

Race1        16th           13位               94.25%
Race2        16th           16位               94.58%

 

国際ライセンス

今年のリポートも結果欄に Race Speed(優勝者比)を記そうと思う。これはレースを通しての平均スピードで、ベストラップよりも実力を正しく表している。私の現在の ACU(日本のMFJにあたる)競技ライセンスは Clubman(国内ライセンス)。National(国際ライセンス)昇格のためにはこのレベルのレースにおける優勝者比 92.5% 以上の Result Sheet を 10枚提出することが条件となる。昨年は全 8レース中、初戦 2レースを除く6レースで条件を満たした。今回更に 2枚を追加できたのであと 2枚。

 

私は若かりし日に日本で国際A級を得ているが、それは既にほぼレースから離れた後、競技人口の減少に伴う MFJライセンスの区分変更による自動昇格だった。いわばフェイク。私は 2015、2016 のクラブレース参戦で上々の成績を得、「若かりし日にもっと出来たはず」という心残りを払しょくしてレースを離れた。その時の成績でライセンスは Norvice から Clubman に上がったが、国際ライセンスにはもう一段ある。かつての国際A級は実力で得たものでは無かったというわだかまりは、レース活動の再開、しかも BSB参戦を決意した理由のひとつになった。英語では Unfinished Business という。

 

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