ロンドン発! 本場イギリスでバイクレースに挑戦

ロンドン発! 本場英国でバイクレースに挑戦

身の程知らずのバイク好きによる、40代からの英国バイクレース参戦記です。

Vol.42 2020 BSB ブランズハッチ GP(Ducati Cup R5 最終戦)

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Brands Hatch GP Circuit

2020 BSB Ducati Cup 第5戦(最終戦) ブランズハッチGP ラウンドは、前ラウンドから 4週間空いた 10月16-18日に開催される。ブランズハッチサーキットはロンドン南東にある首都から一番近いサーキット。ただロンドン自体がグレートブリテン島の南東部にあるので、大部分のイギリス人にとっては、はるばるロンドンまで来て更に大きなロンドンを回り込んでアクセスすることになり、一番遠いとこぼすライダーも多い。しかもロンドン環状高速はいつも混んでいる。ロンドン中心から少し西に住む私でさえ、行き易いトラックというイメージは無い。

 

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ちなみに、そのロンドン郊外の大環状高速(M25)は一周188.3km もある。片側 4-6 車線あって、テムズ川下流側を超える橋は、国土が平坦なイギリスにおいては最大級の土木建造物。時計回りがブリッジ、反時計回りがトンネルになっている。

 

そのブランズハッチサーキットのコース全長は、GP コースが 4.207 km、Indy コースが1.929 km。通常は長いレイアウトがそのサーキットのメインコースになるが、ここは短い Indy がメイン。スタンドからほぼ全景を見渡せる Indy はエンターテイメントとしては有効で、BSBも毎年、Indy と GPの 2回のラウンドが組まれている。が、全6戦’(Ducatiは全5戦)しかない今年は今回の GPラウンドのみ。私はクラブレース時代に Indy を得意としていて 2位に30秒以上の大差をつけて勝利したことも有る(Vol.9)。得意のサーキットなのに、初めてのコースでのレースになってしまうのはシルバーストーンと同じで皮肉なことだ。

 

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欠場の検討 

実は ZX10Rでの下見練習はオールトンラウンドの 4日前に行っていた。Indy がメインのここは GPコースの練習走行日自体が少なく、前後するのもやむを得なかった。何度も来ているブランズハッチながら GPコースを走ったのはこの日が初めて。GP は Indy の倍以上の長さが有り、全11のコーナーの中で Indy と全く同じ走りになるのは 僅かに 3つ。森の中で見えなかった追加部分は、高速で、アップダウンが有り、完全なブラインドコーナーも有る、厄介なオールトンタイプだった。その1日でコースを知ることは出来たが、このコースタイプだと間に合わない、と一層の焦りを感じることになった。

 

でもここから1ヶ月の間に練習は無く、Panigale でここを走るのは本番の金曜日が最初になる。実は 10月2-4日の週末に、NLRと並ぶ有名クラブ、Bemsee のブランズ GP ラウンドが有った。これしかない!と参戦を考えたが、Jasonに難色を示され、転倒の後だけに無理も言えずに諦めていた。ご承知の通り、Jasonは本番での性能維持のためにバイクの走行距離を抑えたい立場。ましてや練習で壊されるなどもってのほか。ライダーからすれば、エンジンが好調だって満足に走れなければ意味が無いと思うが、彼は彼で私が良い状況になってもバイクが壊れれば意味が無いという。でも、その理屈ではレース活動自体を放棄していないか?

 

困った。この準備不足では上を目指すラウンドにならないのは勿論、オールトンの二の舞になる可能性も高い。Ducati の修理費はこたえるし、大怪我でもしたら…。最近はJasonともすれ違いが多いし、何もかも中途半端な状態で戦えるレースなのか?欠場するべきか真剣に悩んだ。しかし…、私は日頃から、やらない方向の判断はなかなか出来ない。どんな結果でもやれば人生の1ページになるが、やらなければただの週末。それに、これまでの積み重ねで掴んだ BSBに出場できる機会を自ら放棄するのか。そうだよ、自分にとって最高の結果を出すチャレンジで良いではないか。とにかく出場しよう。

 

自己昇華を目指して

 

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今ラウンドの日程は金曜日に 20分間の Free Practice と予選。土曜、日曜はいきなり Race1、Race2 というもの。オールトンの時よりも更に走行時間が少ない。昨年のリザルトから目標タイムの目安をつける。トップは1分30秒台。本来なら Dani の残した 1分33秒台を超えることが目標になるが、準備不足で終わったオールトンでの私のベストは Daniのそれから 3秒落ちだった。今回はその時以上の準備不足だが、オールトンよりコースが少し短いことと Indy 部分は得意なことを加味すると、 2秒落ちの 1分35秒台がターゲットか。ただその妥協した目標さえ、たった 4回の出走で達せられるかどうか。

 

16日(金)、初めて Panigale で走ることになる Free Practice は 20分間。走れても12周ほど。その間に、Panigale でどう走るかを把握し、予選に臨むギヤ(ファイナル)、シフトパターン、サスセットを決めなければならない。今のセットは、まず私が、感じの似ているドニントンとオールトンのセットをベースに、データの有る ZX10R におけるそれらのトラックとブランズGP間の違いを引用して机上で考え、それに Pav の経験を加味して決めたもの。それにしても、過去 3シーズンも同じバイクを使っているチームにデータが皆無なのには驚く。Jason は各ライダーは違うから関知していないと言うが。

 

迎えたその Free Practice。徐々にコースに馴れる。高いモチベーションで臨んでいる分、通常の練習走行よりも馴れは早い。もちろん、ゆえに転倒の可能性も高いので一線を超える無理をしない覚悟も必要だ。徐々にペースが上がってくるとギアに悩み出した。とりあえず14-42で出たが、ペースアップと共にどんどんショートになる。ただ、だからと言って安易にロングに振れば良いわけでもない。シフトポイントなどの絡みで、更にショートギアにして一速上のギアで走る手だってある。結果は出走 32台中の23位、タイムは 1:39.056。目標から4秒落ち。射程圏内としてまあまあか。

 

問題発生 

Free Practice 後、頭に残った全ての状況をセッティング要素に置き換え、Pavと一緒に予選に向けてセットを考えた。そして迎えた 16:45 から 20分の予選。走りもバイクも良くなってきたことで、9コーナー手前で 5速に入った、ターン 2-3、4、9-10でタイムロスしているなど、具体的な向上要素が見えてきた。っとその時、右コーナーの進入で毎回、開こうとする右膝がフェアリングに引っかかって思うようにダイブできなくなった。ニースライダーが外れかけている。別に外れても構わないと思ったがスライダーは外れなかった。結果は出走 33台中の24位、タイムは 1:37.437。それでも目標に 2秒まできた。

 

ニースライダーだと思った膝のひっかかりは右のフェアリングだった。取り付けネジが外れて風圧で位置がズレ、ブレーキング姿勢時に膝に当たってしまっていた。走行後 Jason に、「頼むよ~」というニュアンスで伝えると、「フェアリングが全てブロウアップするところだったぞ。バイクに異常を感じたら直ぐにピットインしないとダメじゃないか!」と怒られた。そんな…。私はニースライダーだと思ったんだ。それに、予選はたった20分しかない。準備不足を何とかしようとしている中で、ピットインすることなど考えてもいない。私の気持ちになれば少なくとも他の言い方があるだろうに…。

 

それでもテントでは気持ちを切り替えて、頭に残した全ての状況をもとに Pavと明日の決勝に向けたセットを考えた。夜ホテルの部屋ではトップライダーのオンボード映像 ↓↓↓ を何十回と見てイメージトレーニングをした。幾つかの特定のコーナーで倒し込みポイントが私より明らかに手前な(早い)ことが気になった。そのポイントになる進入速度なのだな。ドニントン・ナショナルのシケイン進入、スネッタートンのシケイン進入、シルバーストーンのヘアピン進入と同様に、大きな飛躍のカギを秘めている気がした。ちなみにこのオンボード、おそらくスーパーバイクのトップライダーだと思う。それにしても、映像では起伏が良く映らない。上の写真(ターン2)と見比べて欲しい。

 

 

次から次に

明けて17日(土)。この日はいきなり Race1 決勝だ。定刻の14:45、24番グリットからスタート。いつも通りにスタートは悪く、数台に抜かれる。後ろは 3列、9台しかいなかったからほぼビリだ。それでもこの位置においては私のポテンシャルが高い。順調にポジションを上げて 19位完走。あと 2台は抜けたと思う。ただ、今度は途中からブレーキがうまく掛けられなくなったのだ。走行後、驚いたことに、途中でリンクを介すタイプのブレーキレバーの、リンクから先が動いてしまうことが分かった。なんということだ。恐ろしい事にならなくて良かった。それでもタイムは 1:36.736。目標まで 1秒。

 

レバーに対するチームの反応はいつもの通り。Pavはマジ危なかったなーと同情してくれ、Bossey John はだから俺はこのタイプのレバーは好きじゃないと言い、整備をした Jasonは触れようとしない。そうしているとコントロールタワーから呼び出しが掛かった。Jasonと Johnが何かを察したように「自分は知らなくてチームが勝手にやったことと言え」という。何でも、レース後に燃料チェックに当たったらしいのだが、ランダムなはずが 3ラウンド連続だったことで Jasonが拒否したらしい。案の定呼び出しはそのことで、ペナルティとして私のレース結果は剥奪され、明日の Race2は最後尾スタートになった。

 

レバーの件も有って Jasonはレース直後はイラついていたのだろう。あれこれ責めずにおこう…。テントに戻って裁定を伝えると、Jasonと Johnが「気にするな。どのみちポイントは無かったんだから関係ないだろ。むしろ最後尾は気兼ねなくスタート出来て良いじゃないか」と言う。…。返す言葉が見つからすに黙ってバンに引き上げた。それは私が言う言葉だろ。ちなみに、コントロールタワーでは「私は知らなかった」と伝えたが、「気持ちは分かるが全てはライダーの責任になる。君はチームを変えたらどうだ?」と言われた。最後の言葉は気になったが、2人には伝えなかった。

 

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絶体絶命

翌18日(日)は 10:05からの Race2 のみ。色々うまく行かないが、出場を決めた時に覚悟していたこと。その中で冷静を保ち、タイムを 1分39秒台、37秒台、36秒台と縮めてきた。上位を目指すのに必要な33, 4秒台の走りを準備するには間に合わなかったけれど、今回の参戦の目標の通り、自分が満足できる結果で終えたい。設定した目標の1分35秒台を保てればいつもの中団でバトルが出来ると思うが、最後尾からでは難しいだろう。ならばタイムだ。アタック出来る段階まで来た今としては、もしかしたら大きなタイムアップもできるかもしれない。

 

スケジュール時間の5分前。いつものルーティン通り、耳栓をし、ヘルメットを被り、グローブをはめて、タイヤウォーマーを外すタイミングを測る。そして周りのバイクに合わせて出た。よし、行くぞ!距離のあるサブパドックからやっとたどり着いたピットロードの入り口に並んだ。するといきなり係が私を指さして、ガソリンのサンプルを提出していないから通せないと言う。しまった!そうだった!昨日コントロールタワーで、Race2 までに燃料検査を受ける様に言われていたのだった。色々あって Jason達に伝えるのを忘れていた。皆がコースに入っていく。Jasonは既にグリッドに居るはず。これはもう無理だ、万事休す!

 

とりあえずバイクを預けてダッシュ。Pit Wallから Jasonを呼ぶ。事情を伝えて一緒にバイクに走る。Pit Wallの向こうではコースを一周廻ってきたバイクが、それぞれのチームクルーの待つグリッドにつき始めている。バイクに戻るとその場で検査を受けた。Warm Upラップ 30秒前のブザーが聞こえる。しばらくして検査OKが出た。直ぐにバイクにまたがってピットロードに入る。グリーンフラッグが振られて全車が一斉にWarm Up Lap に走り出すのが見えた。コースインゲートは間もなく閉まる。

 

あと100m、50m、10m、シグナルよ緑のままぁーっ。私は全てのバイクが1コーナーに消えてから10秒ほどのタイミングでコースに滑り込んだ。ゲートのシグナルはその瞬間赤に変わった。本当に間一髪間。ピットロードを走ってくる私が見えたオフィシャルが、シグナルの切り替えを待ってくれたのかもしれない。ハイペースで 走ってWarm Up Lap中の集団を追いかけた。グリッドも分からないが一番後ろのバイクの隣に着けば良い。そして全車がグリットに着き終わるころ、私も最後尾、33番グリッドにバイクを停めた。

 

落ち着く間もなく、レッドシグナルが消えてスタート。スタートは良くなかったが今回はあまり関係なかった。1コーナーで集団に飛び込んだ。多少切れていた私はどんどん前のバイクを抜いた。そしてレースが終盤に差し掛かるころには、昨日抜き切れなかった 2台に追いついた。その前の方に日頃の中位グループの数台が見えたが、捕らえるには離れ過ぎている。上位グループに至っては既にストレートの先のコーナーにも見えない。残り周回数の無い今となっては、この2台を抜いて後位グループのトップでフィニッシュすることが目標となった。昨日より向上している前提なのだから抜けるはずだ。

 

ただ、すぐ前にいる #6 Peter HASLER の、AOR保険の広告でよく見る派手なピンク色のバイクは新型。ストレートが速くて抜き難い。一度最終コーナーの進入で抜いたが、続くホームストレートで簡単に抜き返された。その前の #95 John REYNOLDS のバイクは私と同型。Peter が抜いてくれれば続けるのだが、どうも抜きあぐねている。そのフォーメーションのままとうとう最終ラップまできてしまった。このままでは終われない。イケーッ!全く先の見えない ブラインドの 9コーナーで思い切ってインに飛びんだ。Peter を抜いた。ただ、残るコーナーはわずかに 2つ。もう1周あれば...。Johnには 0.522秒届かずに終戦。出走33台中の21位。ベストラップは1:35.358。

 

お粗末な結果だけど 

レーズ後のバイクプール。Peter と John と健闘を称え合う。スタート前はどうなるかと思ったが、とにかく今シーズンの最終レースを笑顔で終えることができた。怒涛の気合で 12台を抜いたレースに Jasonは、「これまでで最高のレースじゃないか?」という。私としては全くそんなことは無いが、彼もトラブル続きの後の私の快走にホッとしたのだろう。本当に、転倒でシーズン終了、などということにならなくて良かった。週末を通して色々な困難はあったけれど、気持ちをコントロールし、冷静かつ一生懸命チャレンジし、タイムも Race1から 1.4秒も縮めて目標を達成した。私は満足していた。ただ、いつも正確に状況を分析する Pav が私に言う。「Today must be on your Friday...」

 

             ーグリッドー   ー決勝ー   ーRace Speed (優勝者比)ー

Race1        24th            EX               ー
Race2        33th           21位          93.87% 

 

 

ちなみに今回のラウンドのハイライト版も Youtube に上がっていた。↓↓↓ スネッタートンで争ったライバル、蛍光グリーンの 2台が上位に食い込んで走っている。転倒しているのは シルバーストーンの最終ラップにトマホークのごとく私のインを突き抜けて行ったTrue Hearo のマシン。日頃は従えている #90 Crage、#50 Matt とバトルをしていたようだ。そしてレースは Livi DAYが優勝し、Josh DAYが 2年連続チャンプを決めた。一方の私は、スタート時に最後尾から微妙なスタートをしているのがチラッと見えるだけ。(下の静止画像にも映っている。前戦の転倒を受けて今回のヘルメットは白)

 

 



 

こうして短くも長いシーズンが終わった。シングルフィニッシュどころか、中位争いにも加われなかった私の最終戦は、傍目には大失敗の結果だろう。シーズン当初の「コンスタントに向上して、最後の1,2戦はシングル争いに加わる」という目標を思っても、何ともお粗末な幕切れだ。3戦が終わるころには周囲から、飛躍しそうなダークホース的な印象を持たれていたことを考えると恥ずかしい。だが、欠場の考えを翻して精一杯努力した10月のほろ苦い週末は、確かに私にとっては一生の思い出になった。ダサくても、周りから落胆されても、諦めずによく戦ったと思う。

 

 

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Good-bye 2020 Season!

 

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